❷こっちが地球であっちが月で

 哲平は復唱し、レバーをワープアウトにする。するとあの強烈な違和感を体が駆け巡る。宇宙飛行士アストロノーツのトレーニング中、三半規管をいじめる様な訓練がいくつかあり、ただのいじめだろうと思っていたが、こんなところで役にたつとは。哲平はアメリカ海兵隊上がりのトレーナーの見事なスキンヘッドを思い出していた。


「ありがたや、ありがたや。」

よくご来光を拝む仕草をしては彼を怒らせていたが、今は普通に手を合わせてでも感謝したい気分でいっぱいだった。


「わああああ。」

 船内に歓声があがる。目の前に惑星が現れたのだ。青い、ここからみると植生はほとんどないが、これだけ水があれば十分だろう。人類は賭けに勝ったのだ。


「船長、ご来光です。」

副船長が告げる。惑星の陰から明るく輝く恒星K-35が現れたのだ。

「あれ?月かな。」

さらに惑星の陰からもう一つ惑星が現れたのだ。


「双子…?」

一つの惑星だと思っていたが、なんと連星だったのである。その星にも大量の水が確認された。

「こいつは驚いた。」


 過酷な船旅のご褒美だろうか。この船旅でゴールまでたどり着いたのは36隻。14隻の船が、消息を絶ったり、大破したりしてしまった。とりわけ技術力が劣るアジア、アフリカ地域の生存率が悪く、アジアでは大和の2隻のほかは、インド船3隻のうちの1隻と台湾船だけ、アフリカでは南アフリカ船以外は全滅であった。


 テラフォーミングについての船長会議が行われ、一つの星を重点的にするか、二ついっぺんに行うか話し合った。結果として二惑星同時入植が決定し、18隻づつわかれることになった。イザナギとイザナミもそれぞれ別々の惑星へと別れることになった。


思ったより会議の時間が延びたため、可南子はその理由を尋ねた。

「名称でもめたんだよ。どっちが地球テラでどっちがルナかってね。」


「くだらないわね。」

哲平の答えに可南子も苦笑を隠さなかった。哲平も少し自嘲気味な口調で続ける。

「だろう?結局、こっちがスフィアであちらがガイアになった。それで、太陽の方もK-35っての呼ぶのも味気ないし、サンと呼ぶのもややこしいから名前がついた。アポロンだ。」


「それは一択だったの?」

可南子は不満そうに聞いた。あまりにもひねりがなさすぎたのだ。

「仕方ねえわな。アジア勢は大和と台湾だけだからな。俺はアマテラスでもいいと思うんだがね。」

哲平は下手なウインクをしてから続けた。

 「さて、しばらくは(コールドスリープでは)寝られないよ。テラフォーミングの仕込みがあるからね。今から会議するから、みんなを呼んできてもらってもいいかな?」

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