2230年、人類の希望を載せた宇宙への旅が始まる。
❶センチメンタル・ジャーニー。
こうして数年かけ合法的に入手された10の生体脳が組み込まれた。完成した生体コンピュータには「オモイカネ」という名がつけられた。これは古代大和神話の知恵の神にちなんで名付けられている。
計画からおよそ30年、ついに人類は太陽系から飛び立つ翼を手に入れたのだ。
そして、西暦2230年、ついにその日はやって来た。軌道エレベーターによって、成層圏近くまで引き上げられた宇宙移民船のパーツはエレベーター頂上にある宇宙港のドックで組み立てられる。
全長500Mを超える巨大なロケットが50隻であった。イザナギはニューギニア上空の宇宙港から、イザナミはブラジル上空にある宇宙港から発射されることになっていた。
そしてその8月の最後の日、人類のとっての新たなフロンティアとなる恒星系K-35に向けて出発したのである。この規模の宇宙船を地上から打ち上げるためにはこれに4倍する第1段ロケットが必要だったことを考えると、この宇宙船の巨大さをうかがい知ることができる。
見送りには大勢の人々が詰めかけた。とりわけ大和の人々にとって感慨深い日となった。故郷を喪い、世界中に散らばった同胞がともに作り上げた一大モニュメントだっのだ。古代大和神話の創世の神の名を冠したイザナギとイザナミ。それぞれの船には20人のクルーが乗っている。船長、副船長、機関長、副機関長など宇宙船のクルーたちが10人。医師や教師、ナノマシン技師など植民のためのスタッフが10人だった。
航法はワープ航法。1光年の距離を地球公転周期である1年で飛ぶ亜光速ワープである。ワープ中はクルーもスタッフもコールドスリープで過ごす。哲平も可南子も、ワープを繰り返す度に、二度と家族には会えないんだ、という思いに苛まれていった。
「なに、そのうちに超高速ワープとか開発されて、地球と自由に行き来できるようになっているさ。」
そう思うほかなかった。危険なのはワープアウトした時で、なるべく安全な座標を選んだつもりでも、そこに障害物があれば命にかかわる事故になりかねなかった。
ワープアウトを知らせるアラートが鳴るとコールドスリープも解除されるので、真っ先に起こされる船長の哲平はまず、クルーみんなの無事を確認する。今回が最後のワープアウトのはずだ。先回のワープインの際にK-35がかなり明るく見えてきたからだ。今回は
「いよいよね、哲平さん。」
可南子も起きてきたようだ。航宇宙士は座標と現在地を確認し、ワープが順調であることを告げる。
「ワープアウト、スタンバイ。カウントします。10,9,8…」
ついに新たな地へたどり着く。哲平もクルーたちも興奮を隠せなかった。
「みんな落ち着け。あれが来るぞ。」
哲平が船内放送を流すと、一斉に「お前がな」のレスがモニターに表示された。「あれ」というのは「粒子変換」のことだ。ワープは物質の性質を粒子から波形に変換して空間の「壁」を通り抜ける。
たとえでいうと、高い壁をボール(粒子)は超えられないが音(波長)は通り抜けられる。ということだ。
それで、波形から粒子に戻るとき、体内にものすごい違和感を感じ、中には嘔吐するものもいる。それでワープアウトの日は12時間前から固形分の食料を摂取することは禁じられているのだ。
「カウント0。ワープアウト」
「ワープアウト。」
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