② リズム感は良いんです!
彼女は大和人のクオーターで、ハッキリした目鼻立に加えてキュートで人懐っこい笑顔がすごく可愛いのだ。
まあ、歌はそこそ……いや、『上達の余地』を大いに残している。ただ、ダンスは抜群で、長い脚を華麗に駆使したステップが超絶上手い。幼い頃から、アルゼンチンタンゴを嗜んでいたそうで、プロ級だと俺は思う。
まあ、彼女が「研修生」だった最初の2年前は俺「だけ」が、その素晴らしい素質を見抜き、最初期から応援していた。ただ、俺の布教とゆいたんの努力が実ったのか、ここ数ヶ月で一気に人気が上昇し、みんなの「ゆいたん」になってしまい、
今やトップチームのセンターを狙える位置に、というか、今回の定例会で発表される新曲でついにセンターに抜擢されたのである。
「うーむ、歌唱力の底上げはいかほどであろうか?」
1日かけてゲットした席で、俺は翌日の開演を待ちながら隣の「チキ友」(ファンクラブのメンバー)の山田氏に呟いた。
「ほう、棗氏、『育ての親』としては不安ですかな? ゆいたんの初センター。」
氏は「ゆいたん」の公認個人応援団である「ゆいクラ」の
コンサートは最高だ。メンバーもファンも一体になって大いに盛り上がる。
そして、コンサートも終盤に差し掛かると、初センターで緊張気味の「ゆいたん」はマイクを取ってMCをはじめた。
きっと、何度も練習を重ねたに違いない。頑張れ、噛むな。噛むな。
「みんな! 今日は会いに来てくれて、本当にありがとう〜。今日の新曲は、「YSI」のキャンペーンとタイアップしてます。「YSI」は「大和宇宙研究所」というところで、地球から一番近い可住惑星への移民船を作っている夢のある組織だよ。
実は、YSIは支援メンバーを募集していて、ゆいも登録したんだよ。みんなも、協力してみてね。 新曲はアップテンポでキャッチーなダンスチューンです。
聞いてください。『
会場のボルテージは一気にマックスだ。
「まあ、アップテンポにすれば、多少はごまかせるか。」
「リズム感だけは良いですからね。」
「ええ、リズム感だけは。」
俺は「ゆいたん」の歌の不出来に若干やきもきしながら、魂を込めてサイリウムを振った。
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