❹ 事件は後々まで大変だ。
ようやく茉莉が呼んでくれた警察が来たらしいのだが、もはや俺に意識はなく、目が覚めるとそこは病院のベッドの上であった。
まあ、本当はそこからが大変だったんだけど。警察による厳しい取り調べが続いたんだ。
ジェフはシドニー郊外(といっても自動車で半日以上のレベル)の村の有力者の子息で、フダ付きの
そしてビルは、こちらに来てからの友人というか取り巻きだった。やつらの犯行の動機は、茉莉に何度も交際を申し込んだのにすべからく断られてしまい、何とか自分のモノにしたかったらしい。
モノじゃねえよ、女の子はな。
結局、いくつもの防犯カメラに残されていた動画から、俺の主張が正しいことが認められ、ようやく正当防衛が認められた。
刑事さんは
「 しかし、的をみないであれだけ正確な射撃ができたらプロどころじゃない腕前だなあ。特殊部隊からスカウトがくるほどのね。」
と擁護してくれた。俺のスマホに「
だからといって正当防衛が認められたところで俺が日常生活に復帰できたのはごく最近のことだ。PTSD(心的外傷後ストレス)と診断された俺は、しばらく通学するどころか家からも出られず、結局、出席日数不足がたたって晴れて妹と同級生になったのである。
まあ、俺が立ち直れた、というか何とかここまでたどりつけたのも妹の支えが大きい。
茉莉は毎日学校から帰宅すると俺の部屋に立ち寄り、学校の話をしてくれた。俺は毎日茉莉のにためにスイーツを作り、待っているだけの生活だった。
ほかのことをしようと思っても、だるくて身体が全くと言っていいほど動けない。ただ、スイーツを作ることが、あたかも自分の存在を証明するもの。家族と自分の絆。だったのかもしれない。
それも嫌になって全部投げ捨てたくなる衝動に何度も襲われた。
でも毎日茉莉が
「助けてくれてありがとう。」
と言い続けてくれた。
やがて、訪問カウンセラーを部屋に入れられるようになったり、自分からも出かけられるようになった。
驚異的な回復なんだそうだ。ただ、あの場面と同じ夕暮れ時はどうしようもなく恐ろしくて、体が震えて止まらない。
皆もよく、俺を励まそうとしてか、妹を守った「ヒーロー」だね、といわれることがある。でも俺はヒーローなのだうか。
確かに、戦争は恐ろしい。こんなことをさせるために……いや、誰かを守る結果として人が死ぬ、そう考えないと気が狂いそうだ。
俺が立ち直るきっかけになったのは、茉莉の言葉だった。
無論、茉莉自身の言葉というよりは、誰かの言葉だったんだろう。彼女は俺のためにいろいろカウンセリング関係も勉強してたからだ。
「お兄ちゃんが死んでも償いにはならないんだって。死んだら痛みも苦しみも存在しないから。だったら、苦しみながらも生きて罰をうけようよ。彼の死は私にも原因があるんだし。ね、お兄ちゃんは償う義務と権利と自由があるんだよ。
お兄ちゃんを罰しているのは法律じゃない。お兄ちゃん自身よ。
だったら、お兄ちゃんが自分で判決を言い渡せばいい。受ける罰を決めればいい。-ただし、死刑だけはだめだからね。私も手伝ってあげるから。」
それから俺はボランティア活動を始めた。老人ホームや保育園で、お菓子作りをするようになった。学校にはなかなか足が向かなったが、おいしいものを食べた時の皆の笑顔が俺を癒してくれた。
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