2220年、オーストラリア。不知火尊君 (18) の事案。

❶ 妹が同級生になったら!

 朝6:00。目覚まし時計のベルがけたたましく鳴り響く。しかし、電子音なのにいまだにベルというのはどうかとも思う。俺の名前は不知火尊しらぬいたける。今日から高校2年生になる18歳だ。え?計算が合わない?あらやだ奥さん。さ・ず・か・り婚ですのよ…。じゃねえ。

 

 とりあえず俺は枕を抱きかえ、二度寝を堪能することにした。

「お兄ちゃん!」

どたどた足音を立てて妹が階段を上がってくる。

「おい、起きろ。」

布団をめくると、柔らかい足の裏でげしげしと踏みつけてくる。ああ、妹よ、それはマッサージにすぎない。


「だー、痛い。顔を踏むな。起きるから、ちょっと待って。大体兄に対する敬意はないのか。」

突然の無慈悲な攻撃に俺はたまらず抗議の声を上げる。

「今年から同級生じゃん。悔しいかね?。尊君。」


妹の名前は茉莉まつり。同じ高校に通う一つ年下の妹だ。彼女が窓を開けるとまだ肌寒い9月の風が吹き抜ける。

「寒いよ。着替えられないじゃないか。」


 俺は抗議の声をあげるが、庭に咲いた河津桜のビビッドなピンク色が目に飛び込んできて春がもうすぐであることに気付いた。え?季節がおかしい?

ここは南半球のオーストラリアだからねえ。これでいいのよ。


「もう、毎日毎日手をかけさせないでよね。」

スクールバスを降りても妹のお説教は続く。

「おす!尊。なんだまた『血茉莉ちまつり』に挙げられてるのかよ。」

先輩になった友人に冷やかされる。

「大変なんですよ。先輩。」

ふざける俺とは対照的に、

「先輩それやめてください。なんだかそれ、定着しそうで怖いんですけど。」

茉莉も抗議する。


 第三次世界大戦から70年がたち、俺たち大和人が集団移住を始めてからもそれくらいたった。ここ南オーストラリア州にある大和人居住区、通称「秋津洲あきつしま」である。とはいえ、俺には戦争の記憶もないし、大和へ行ったこともなければ住んだこともない。俺の故郷はここだ。それで十分だ。

 

 秋津洲はオーストラリアで最も繁栄した地域で、人口も一番多い。ここ数十年は、白人系オーストラリア人も含めてたくさんの人間が流入している。そのため、さらに街には活気があふれるようになった。


ただ残念なことに、活気と治安は並立しないらしく、女性が夜道を一人歩きできる時代はとうの昔に終わっていた。俺のダブった理由について語ろう。俺が通う誠心館高校は秋津洲でも有数の進学校である。


 そして俺の妹、茉莉は本当の妹ではない。 俺たちはステップファミリーなのである。つまり俺の父親と茉莉の母親は俺たちを連れて再婚した。それはまだ6年くらい前のことだ。茉莉はかなりの美少女であり、肩までかかた長い髪に白い肌、濡れたような大きな黒い瞳を持っていて、初めて会った時の俺の感想は「まるで生きた人形みたい」だった。


 それまで茉莉も俺も、幼いながらに親との死別を経験していて、やっと立ち直りかけたところでの再婚話であったのだ。当時、思春期に入ったばかりの二人は再婚に反対だったし、親に反発もしていた。


 たぶん、無意識のうちに両親の中にある男「性」、女「性」であることに嫌悪感があったのだろう。だから親にとって自分が「生きがい」ではあっても「支え」にはならないことを理解したのはまだ最近のことだ。

 それでも、俺は彼女を一目見た時から「保護欲」をかきたてられたのである。

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