② 僕らは、虚構とリアルのはざまで。
でも、ゲームの金はどれだけ積み重ねてもゲームでしかない。俺たちはやがてはこの虚構の世界から卒業し、より「無理ゲー」でしかも「くそゲー」なリアルの社会で生き、そして死んで行くのだろう。
ラノベならゲームの神様が現れて今の装備とステータスのまま異世界に連れていってくれるのにな。
俺はログアウトすると時間を確認する。
「いけね、忘れてた。」
約束の時間が迫っていた。俺は自転車に跨ると街へと走らせる。西暦2117年ももうすぐ終わる。
街はクリスマスキャロルで溢れ、そこかしこにイルミネーションが施されている。
俺は大きく右折すると坂を登り始める。電動モーターが始動するのを感じながら、俺は立ち漕ぎを始めた。坂を登りきったところがゴールだ。
「遅いよ。」
挨拶より早くクレームをつけるのは幼馴染のキャロライン・美鈴・フーバーである。
「ごめん。手間取ってた。」
俺が目的語をぼかすと直ぐに遅刻の原因を言い当てられる。
「どーせまたカニでも取ってたんでしょ?」
「いや、エビだ。」
「ほら。」
俺も止めればいいのに正直に白状してしまった。今日は、中学の同窓会とクリスマスをかねて明日の晩に行われるパーティの準備をする日だったのだ。
無論、『面倒くせえ』が口癖の俺が好き好んで首を突っ込むことなどあり得ない事案だ。要するに、幼馴染のキャルに巻き込まれたのだ。
二人して会場として借り受けた部屋に入ると、まだ、他のメンバーは誰も来ていなかった。応援で5人ほど来るはずなのだ。
この部屋はキャルの叔父の持ち物で、普段は倉庫として使っている。今度それを手放すことになり、整理を終えたところだった。それを特別にただで一晩貸して貰ったのだ。
電灯をつける。換気扇が回り始めた。冷んやりした空気が鼻に入る。先ほど汗ばむほどペダルを踏んだ俺に取ってはありがたい。
「うう、寒い。エアコンのスイッチはどこ?」
寒がりのキャルが部屋を見渡す。
「あれじゃないの?」
俺が指差すと、パネルのようなものがそこにあった。
「あまり温度を上げ過ぎるなよ? おまえダウン着てるんだから大丈夫だろ」
キャルとは室温の好みに決定的な違いがある俺は先に言った。
「いやよ、部屋の中で厚着するなんていや。」
キャルはコートをハンガーにかけると暖房を入れる。
その時だった。眩暈のような感覚に陥る。いや、眩暈なんかじゃない。こいつは……。
「うわ、地震だ。」
キャルが不安げな声を上げる。アメリカ西海岸、ロスアンゼルス郊外のこの町では、地震自体はそれほどは珍しくない。
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