2217年、アメリカ。宝井舜介君(18)の事案。

① グルメハンター!

  砂漠というステージは油断大敵だ。全ての生物を拒むような環境であるからこそ、そこに住まう生き物はタフそのものだ。

俺はじっとりと流れる汗を感じながら大剣を構える。足場が悪い。軸足に体重を載せると、足を取られる。

 俺はパーティのメンバー位置を確認する。

みんな、肩で息をしている。乾いた空気が鼻腔を焦がすようだ。


「ふう、あちい。なにもこんな不快感まで再現する必要があるのかね?」

俺は隣で槍を構える「とれちこ」さんの言葉に無言で頷く。正直言って、言葉を出すだけで体力ライフを削られそうだ。


「運営に苦情クレームでも出しますか?」

俺の対面で刀を構える「るんるん」さんが苦笑混じりで言う。


突然、足元の砂が動き始める。砂の下の獲物が動き出したのだ。ふいに毒針のついた尾が俺の目の前をかすめる。

やばい、刺さったら終わりだ。俺は迷わず大剣を砂に突き立てる。手応えはあった。

「間違いない。ヤツだ。」


  俺はサブウエポンのナイフを取り出し、構えた。ヤツ、つまりロブスコーピオンは大剣を砂の中に引き摺り込もうとするが、大きすぎるのか引っかかってしまう。

「グッジョブ!隙間に刺さったぜ。縫いつけ成功じゃん?」

とれちこさんが嬌声を上げた。


  苦しいのかロブスコーピオンは一旦砂地に沈むも、今度は全身を表す。両腕のハサミをいっぱいに広げて、俺たちを威嚇した。

「いいね。こいつは大物だ!」

「るんるん」さんは刀でハサミを一つ切り落とす。ロブスコーピオンの挙動はさらに激しくなる。痛みで形振り構わなくなってきたのかもしれない。


そして、「 とれちこ」さんが、ヤツの急所である目と目の間の窪みにピンポイントにヒットさせる。

「よし、とどめだ」

俺は尾に突き刺さった大剣を回収すると、ヤツの背中の甲羅の隙間にもう一度突き立てた。


 ヤツは砂埃と大きな音を立てて倒れた。ミッションコンプリートのファンファーレが鳴り、経験値とコインが増える。


「あれって食うと美味いらしいぜ。どうも伊勢海老に似た味がするらしい。」

「るんるん」さんが生唾を飲む。

「どうせなら、味覚そっちをリアルにすればいいのにね。」

「まったくだ。」

俺の言葉に二人とも同意する。

「まあ、満腹にもならないけどね。」

そして俺は伊勢エビを食ったことがない。


俺たちはぴったり息が合ったパーティだと思う。でも、俺たちは互いのリアルを知らない。

 このVRMMO『FCW(Freedm in creature 's World)』はモンスターを狩ってそれを売買する、というゲームだ。それを売ってアイテムを買い、自分の装備やステータスを強化するわけだ。

 俺たちはその中でもいわゆる「グルメギルド」に属している。主に食材となるモンスターを狩るのである。


このゲームも公開当初は割と流行っていたが、この業界も日進月歩で、次から次にヒット作がリリースされる度に過疎化が進んでいった。俺たちのギルドも最近は10人前後で、最盛期の1/5にも満たない。

 しかも、ログインするのは大抵俺たち3人だけである。まあ、単純に互いの時間が合うだけなのだが。

俺もリアルの金がさほど必要がないのでこのゲームを続けていた。


でも、そろそろゲーム三昧な生活も潮時かも知れない、そう思っている。俺も晴れて受験生になったからだ。親も勉強しろとうるさい。

「あーあ、この金がリアルだったら良いのになあ。」

俺がぼやくと「るんるん」さんも頷く。

「たしかにねえ、毎月これだけリアルで収入みいりがあれば十分に生活していけるよな。」

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