20④-⑧:これ、もう雪合戦じゃねえ
「……何で俺まで」
夏の間は原っぱだっただろう雪野原で、テスは雪玉を手に、げんなりとつぶやいた。
「まあまあ、いいじゃん。こんなの大人になったら恥ずかしくてできないから、機会がある時にやらなきゃ損だ」
カイゼルがテスの肩を叩く。
『よ~し、じゃあ4人ずつ2つに分かれたね』
セシルは、レスターとロイとノルンと。そして、テスはカイゼルとアンリ、そしてリアンとチームを組むことになった。
「はいはい」
ノルンがげんなりとした声で、適当に相槌を打ったのにも、リアンは気にしない。
『じゃあ、いよいよ開始だ!よーい、スタート!』
リアンが叫ぶ。テスは「あいつは何でハイテンションなんだ」と呆れながら見ていた。その時、早速、ボコッとテスの顔面に大きな雪玉が激突した。そして、テスは、雪の地面に吹っ飛ばされた。
「や~い、よそ見してるからだ」
その声にテスは、やったのはセシルだと理解した。あいつも最初は面倒くさそうにしていたはずなのに、いつの間に乗っているんだ。…と、テスが体を起こした時、またもや顔面に雪玉がぶつかった。
「よっしゃ、当たった!」
その声に、当てた相手はロイだと理解した。テスは、怒りにかああっと顔を赤くすると、丸めて積んであった雪玉をすかさず取り、それをロイに向かって投げた。
「うげっ!」
浮かれていたロイは、あっさり顔面に玉を受け、ひっくり返った。セシルが仇討ちと言わんばかりに雪玉を連続して投げてきたが、テスはさっと、シェルター代わりの雪の壁に隠れた。
「おい、隠れてないで、出てこいテス!出なけりゃこっちから攻めに行ってやる!」
セシルは雪玉を片手に抱え、シェルターから出た。
「ぎゃあああ!!」
しかし、そんなセシルに、アンリとカイゼル、リアンの雪玉が集中砲火のごとく襲う。
「貴様…!俺のセシルに何をおおお!!」
これにはレスターがキレた。レスターは雪玉を連続して投げた。アンリだけに向かって。
「ひいいいい!!」
襲いかかるレスターの雪玉に、アンリは悲鳴を上げてシェルターに隠れた。しかし、レスターはそんなアンリを目指して、雪玉を抱え、敵地に乗り込もうと駆けだした。
そんなレスターに、カイゼルはチャンスと言わんばかりに、雪玉を投げた。すると、あろうことか、レスターの目の前に緑色の魔法陣が出現し、それを雪玉が通過して消えた。そして、カイゼルの目の前に魔方陣が現れると同時に、雪玉がカイゼルの鼻に直撃した。
「ノルン、てめえ!遊びに魔法は卑怯だぞ!」
カイゼルは、鼻血をぬぐいながら叫ぶ。
「遊びでも、我が主を傷つけようとする者は許しません」
ノルンは当然のように言うと、隣にいるロイに目くばせをした。そして、雪玉を連続してロイに投げさせる。その雪玉は展開された魔方陣に皆、吸い込まれるようにして消える。
かと思えば、次の瞬間、カイゼル達の周囲に、無数の小さな魔法陣が現れ、そこから雪玉が放射される。四方八方から雪玉が、カイゼル達4人に容赦なく襲いかかる。
「ひいいい!」
アンリは、肩掛け鞄を頭にやって、雪玉から身を守る。しかし、何も荷物を持ってこなかった他の3人は、盾となるものが何もなく、雪玉の直撃を受けていた。
『くっそ、魔法を使うんなら、こっちだって!』
堪忍袋の緒が切れたように、リアンはシェルターから立ち上がった。すると即座に、セシルの玉が、リアンの顔面に直撃した。
『…くそ、もう怒ったぞ―――!』
リアンは片手を上げた。すると、背後に幾つもの小さな氷塊が出現した。手を振るって、それをセシルたちに向かわせる。
「いで!」
ロイは、氷塊を額にもろに受け、後ろにひっくり返った。
「お前、それは危ないって!!」
セシルは、氷の結界でリアンの攻撃を防ぎながら、叫ぶ。しかし、リアンは『うるさい!』と怒りのままに、氷塊の雨を降らせる。
「お前がそうなら、オレだって!!」
セシルは、爆炎をリアンに向けて放った。それは則ち、アンリやカイゼル達にも向かっていることになる。
「おい、馬鹿。何熱くなっているんだ」
テスは、リアンの前に出ると、慌てて氷の結界を張って皆を守った。しかし、その結界の中、アンリを背後から狙うものがあった。
「…!!?」
アンリの首を、誰かが後ろから肘で締め上げた。
「捕まえた」
暗い怪しい笑みで、驚愕するアンリを見たのは、レスターだった。
「…敵の首をへし折れば、雪合戦は勝利という事でいいのかな?」
レスターは明らかにとぼけながら、ぐぐぐと腕でアンリの首を締め上げる。
「レスターさん!死ぬ、死にますううう!」
手加減なしの力に、アンリは「ギブ!ギブううう!!」と叫んだ。
「何やってんだ、馬鹿!!」
カイゼルが、アンリからレスターを引きはがそうとするが、レスターは意地となって離さない。
「テス!リアン!お前ら手伝え!」
しかし、テスは申し訳なさそうに、首を振る。前から、セシルの集中砲火に、ロイの鎌鼬が連続して襲ってくるために、手が離せないからだ。
リアンはと言えば、テスの結界越しにセシルにアッカンベーをしていて、更にセシルの怒りと魔法の威力を助長させていて、テスの手を離せなくする悪循環を、見事につくりあげていた。
「これ、もう雪合戦じゃねえじゃん…ガチの魔法合戦じゃん…」
カイゼルは、その光景を呆然と見渡すと、力なく言ったのだった。
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