20④-⑦:子供は得
数日後の朝。その日は、冬だというのに朝から快晴の天気だった。
その日差しは、もうすぐ春が来ることを告げているかのような、暖かな日差しだった。村の家々の屋根に降り積もった雪は、少しずつ解け始め、軒先から雫が絶え間なく落ちていた。
『今日も、何の反応もないよ』
「そうか…」
リアンが申し訳なさそうにしているのに、セシルは「別にいいよ」と首を振る。
2人は宿の前の道に出ていた。
リアンは、分身の王妃の気配と思考を読めるため、その能力を利用して奴のレーダー代わりとなっていた。しかし、今日も何の反応もないようだ。
「…平和続きなのは良いことだが、こうもじらされると、不安を通り越して暇になってくるからなあ」
セシルが困ったように言うと、リアンも『そうだよねえ』と困ったように相槌を打った。
『あいつをやっつける作戦はもうとっくに練り終わっちゃったから、今日もやる事はないね…どこかに散歩でもしに行く?』
リアンの提案に、セシルは力なく首を振る。
「リザントって田舎だから、どこにも遊べるような場所が無いんだよなあ。夏なら土産物屋が開いているからまだしも、今は冬だからなあ。森で遊ぶにも雪合戦ぐらいしか」
『じゃあ、みんなで雪合戦しようよ。楽しそう!』
リアンは、きゃっきゃと飛び跳ねた。そんなリアンに、セシルは呆れの視線を送った。
「楽しそうって…子供かよ。お前こんなくそ寒いのに、元気だなあ…」
『子供じゃないもん。楽しいことは、いくつになっても楽しいもん』
「はいはい、じゃあひとり雪合戦でもやってろ」
セシルは「あ~寒い」と手を揉み揉み、宿の玄関へと向かった。そんなセシルを、リアンは慌てて追う。
『そんなことできる訳ないでしょ。いいじゃない、皆で雪合戦しようよ!』
「他の奴らも絶対、寒いからやだって言うぜ」
『だけど僕はしたい!』
「分身もう二三個つくれば、できると思うけど」
『そんなの無理だって!』
リアンは、玄関ドアを開けようとするセシルを引っ張り、『やるの!』とわめき始める。
「子供のだだこねかよ…ったく」
セシルは、はあとため息をつくと、頭をがりがりと掻いた。が、かつらが取れそうになって、慌ててかつらのポジションを直す。
「しょうがねえなあ。…分かったよ。オレと二人ぼっちで雪合戦しようぜ」
『やだ!そんなの、雪合戦って言わない!』
リアンは地団太を踏み始める。セシルは、心底呆れのため息をついた。
「…お前、100年以上…いや、100足す500年で…600歳以上生きてるのに、なんでそんなに幼稚なんだ?」
『幼稚じゃない!だって僕、雪合戦、昔にテス達とやって以来なんだもん。500年ぶりぐらいなんだもん。やりたい!』
うるうると涙目で見られるが、リアンは眉をぎこちなくしかめていて、演技だとすぐに分かった。ただ、セシルは断ったら、泣かれるんだろうなあと思う。きっと大声で。
そして、なんだなんだと野次馬たちが、通りの家や宿の窓から顔を出して、自分が悪者にされるに違いない。相手は子供にしか見えないのだから、どうしても自分が悪者になる。
「…わかったよ。他の奴らにも頼んでやるよ…」
仕方なくセシルが頷くと、リアンは『やったあ!』と跳びあがった。そんなに喜んでくれるのなら、まあいいかとセシルは思う。
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