第5話 オジさんの勉強中
唐突だが最近はオジさんを勉強している。
いいオジさんになる為に最近は日々勉強する毎日だ。年齢や見た目だけがオジさんになり中身が伴っていないというのは恥ずかし過ぎる。私はいつだって、歳相応のいい人間でいたいのだ。
いいオジさんとはなにか。
説教臭くなく。金払いもそこそこいい。引き際を熟知し気遣いもできる。清潔感もあってウィットに富んだ会話ができる。女の子との会話ももちろんだが、若い男とだって軽快なトークを繰り広げられる。
書き出しただけでも凄まじいハイスペックだ。こんな伝説のスーパサイヤ人みたいなオジさんいるか?とつい思ってしまう。
いるんだなたまに。
まあそういう人は大概が大きな会社の社長さんとか、もしくはとことんまでやり尽くした超遊び人で世慣れしてるというか色々なことを経験してる人が多い。
「若い頃はさぞおモテになったんでしょうね」
なぞと女の子から言われようものなら
「いやいや。今と大して変わらないさ」
と余裕の微笑み。
カーッ!
こんなオジさんになりたい。
オジさんはまず服装が大事だと聞いた。
高い服を身につけていればいいという話ではない。高価なブランドは着ていても嫌味にならないようなさりげなさが必要らしい。極端な話だが、安い服でもいつでも新品かもしくは新品に見えるような状態で着ているのがいいそうだ。
靴や財布も良いものを使う。小物にも気を配れてこそいいオジさんだそうだ。
ただ高価であればなんでもいいという考えではなく、あくまでいいものを。だそうだ。いいものを安く手に入れている人が一番賢い。
ということは近い将来、それなりにいい服かもしくは定期的に新品を着ていられるように仕事を頑張らないといけない。金持ちになりたいわけではないが、服も身体もヨレヨレではなんだか寂しい。健康にも気を遣いたいところだ。
所作も大事だと聞いた。
いいオジさんの所作となると難しいが、嫌なオジさんの所作は簡単に思いつく。
例えば、道端で
所作と言っていいかどうか分からないが、酒に飲まれ過ぎているオジさん。アレもいけない。飲食店で店員を怒鳴りつけてたり、道でイチャついてる大人しそうなカップルに絡んだり。
安い酒とオジさんは出会う前から最悪の結末が決まっている組み合わせだ。ゲゲゲの鬼太郎で言うなれば強力な妖怪の封印とねずみ男。笑うセールスマンで言うなら悩みを抱えた人と喪黒福造。Vシネに出てくるヤクザになりたての若者とホステスになりたての女の子も大概ラストでどっちかが死ぬ。
閑話休題。
とにかく嫌なオジさんにならないことがいいオジさんへの第一歩だと思っている。
いいオジさんと言えば、とにかく器が大きいことも大事だと聞いた。
若者が知った風な口を聞いたり、間違ったことを言っていたとしても
「ふむふむ。なるほど。いやそうですか。とても今の時代に沿った良い意見ですな。実に素晴らしい」
とだけ言って微笑む。これですよ。これができれば一人前のいいオジさんだと言える。自分の意見をさりげなく伝えたりとか、最終的に経験でねじ伏せたりするのはまだにわかのオジさんだ。本物のいいオジさんは自分の意見なんてのは端っこに置いておいてしばらく聞きに徹するそうだ。
そうして最後、かの若者と二人きりになった時に相手から訊ねられてはじめて自分意見を述べる。その時もあくまで控えめに、かつ相手の意見を尊重して伝える。それがいいオジさんの意見の仕方。
詰まるところ「あなたはあなたらしくいればいい」と背中を押してくれる人が器の大きいオジさんなのだ。
SNSで「FF外から失礼します」なんてぶち込んでくるようではいいオジさんととうてい言い難い。FF外ならすっこんでいろ。
私はそう思う。
最近読んだものにこんなことが書いてあった。
「いい人間になる為には貯金や筋トレと同じで日々の積み重ねが必要だ」
と。私もまったくその通りだと思う。
歳をとれば自然といいオジさんになれるわけではないのだ。その証拠に世間からは大多数のオジさんは嫌われている。私はそれが悔しくてしょうがない。
とある広告のキャッチコピーが「さよなら、オッさん」だった。私は、オジさんの初心者として実に悔しかった。だが疎まれるオジさんが多いのは事実。ならばせめて自分だけでも努力して好かれるオジさんを目指していかなければならない。
これから歳をとるばかりなのだから。身の丈にあったいいオジさんになりたい。
そのために目下、オジさんの勉強中である。
続く
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