隠世ノ城
私達を乗った宙船は、空間の歪みを通って、時空間という川を流れているようにゆっくりと進んでいき、一瞬加速したと思うと、賑やかな都の上に浮上した。
船の甲板
「えっと…鬼神様、着いたの?」
「ああ、ここが我らあやかしの都"妖都"だ。ちなみに今からこの船向かうのは、あそこに見える一番高い丘の上の城だよ。」
「あそこが鬼神様の住居?」
「ああ、あれが僕、妖王の住まう城…」
「天上月光城」
「そう、天上月光城。僕が住むにはもったいないくらい綺麗な城さ」
「へぇ〜、ホント綺麗で鬼神様にお似合いの城ですね。ところで水無月、どうしてこのお城の名前知っているの?もしかして来たことあるの?」
「ええ、遠い昔にね。…あの頃はもっと、あの城も、都も、この隠世も、全てが光り輝いていたわ。今とは比べ物にならないくらいにね。」
そう言って、彼女は遥か遠くを見た。
「…ああ、そんなの僕だって分かっているよ。彼女のいた頃の輝きは僕には創れないって事も、僕には、妖王なんて職は荷が重すぎるってことも、はぁ〜、やっぱりこんなんじゃ駄目だよね。やっぱり、僕は駄目な王だ。あゝ、もう王様やめたいな〜」
「ちょっ、鬼神様?妖王ってどれほど大変か知らないけど、辞めちゃ駄目だと思う。」
「どうせ僕なんて駄目な王ですよ!周りの家来たちに迷惑かけてばっかりだし…」
「ちょっと鬼神様!そんな事ないからしっかり!」
「どうされましたか九紫楼?…なっ、大変だぞ!妖王様がまた発作を起こされたぞ!」
私達の会話をたまたま聞いて近寄って来た護衛の一人が、いきなりそう叫びだした。
「なっ、何事?発作?」
それを聞いた他の護衛立ちもバタバタ近寄ってきて、現場は鬼神様を持ち上げようと騒然となった。おかげで私は隅に追いやられて、ポカ〜んとしながらそれを眺めるしかなかった。
私が何がなんやらと思いながら突っ立っていると、隣に愛音が来た。
「九紫楼、何が起こったの?」
「あっ愛音!どこに行っていたの?」
「ははっ、水無月を遠くからずっと眺めてたんだ。トイレから帰ってきたら、何だか年寄りみたいな水無月を見つけて、面白くて影からひっそり見てたの」
「なっ⁉何ですの愛音!人を年寄り呼ばわりしないでよね!」
「ふふっ、確かにお爺さん、否、お婆さんみたいだったわね」
「なっ、何を急に失礼なこと言うだすの?私はただ昔の妖都を思い出して、あの頃は楽しかったと思い出に浸かっていたしだけで」
「それが婆臭えんだよ!」
「愛音の言う通りだね!水無月、いくら安倍晴明の生まれ変わりといっても、まだ17歳なんだから、そういうの似合わないよ!」
「水無月おばあちゃんだな」
「水無月おばあちゃん」
「なっ、おば、おばあちゃん⁉私はまだ17歳…ああ!もういい!勝手におばあちゃんって呼びなさい!その代わり、貴方達もババアだからね!」
「なっ、何それ!私はまだピッチピッチの花の十代よ!」
「はっ、愛音、貴方みたいな女子力のない女に、"花の十代"なんて言葉似合わないわ!むしろゴリラよ」
「なっ、なっ、何よ水無月!私はゴリラじゃないし、あんたみたいな婆さんにそんな事言われたくないんですけど!」
「あら傷ついた?それはごめんやす」
「むうぅ…、水無月の腹黒ババア!今すぐにでも呪ってやる」
「あらやだ、妖王様助けて!」
「えっ、何?急に何が起こったんだ?」
「妖王様〜」
「えっ?あっはいはいちょっとまって…」
「ほら鬼神、お前ならあの鬼のような形相のおなごを止められるでしょ!ほら早く、早く、古い友のために働かないか!」
「えっと…今何が起きてるか僕に誰か教えて…?」
「ほら早く止めないと、あなたの大切な大切な友達が呪い殺されますわよ!」
「…水無月?清明?君、愛音ちゃんに何したの?てか、昔から君って、こんな時にだけ僕に任せるよね。おかげで散々な目にあってきた僕の気持ちも考えてくれるかな?」
「え〜、やだ!それに、それのお陰であの方との関係が進展したんだから感謝しなさい。私はあなた達二人の恋のキューピットよ!ほら全力で護りなさい!」
「いや絶対違うと僕は信じたい」
「み、な、つ、きー!」
「あっ、はいはい愛音ちゃん、ちょっと落ち着こうか。君のその美人な顔が台無しだよ。鬼みたいだよ。」
「離せこの弱虫ダメダメ鬼王!」
「うう…っ、何か傷つく発言された気がする。僕いちよこの隠世の王なんだけどな…」
「妖王様!皆様!間もなく天上月光城に着きます。着陸の準備を」
遠くの操縦室から、スピーカーを通して若い操縦士君の声が聞こえてきた。
「ああっ!本当だ!天上月光城があんな近くに、近くで見るとホント綺麗なお城。三人も早くこっち来て来て!」
「はいはい、そう騒がなくても今行くわ」
「ホントだ!綺麗な城だな!ねえ隠王様、この建物何でできているんだ?」
「はぁ…えっと確か…大理石とクリスタルだったな」
「あとダイヤモンドよ」
「凄いわね。あっ!傭兵もあんなに」
「やっぱりお前王様なんだな!」
「はぁ…もう諦めよ。君達、一回中に戻るよ」
「は〜い!」
私達の乗った宙船は、ゆっくり降下して行って、お城から少し離れた船着き場に停まった。
船から降りて天上月光城を見上げると、美しい満天の夜空の下に青白い光をまとっていていて更に綺麗に見えた。そして、時たま、月明かりに反射して、所々に散りばめられたダイヤが煌めく。それがまた幻想的で美しい。まさに天上月光城。その美しい名前にピッタリの城だ。
月光城に入ると、私達は中世のような様式の綺麗な客間に通された。
私達がその綺麗さに圧倒されて突っ立っていると、後ろから鬼神様が私達の背中を押し、私達を順番に席に座らした。緊張で思わず背筋が伸びて、どぎまぎとしてしまう。そんな私達を見て、鬼神様がクスクスと笑う。
そんなどうしたら良いか分からない状況が何分か続いた頃、コンコンという音と共に入り口の扉が開けられ、鮮やかな着物を着たあやかし達が入ってきた。そして、私達の目の前に高級料亭出だされるような美しい料理が盛り付けされた重箱を置いたかと思うと、いかにも見た目が化け狸と言う感じの少女以外は、ササッと客間から出て行ってしまった。
狸の少女は、他のあやかしが退場したのをしっかと確認した後、私達の方に向き直り、笑顔で話し始めた。
「九紫楼様、水無月様、愛音様、お初にお目にかかります。私は、妖王様の料理番兼皆様の食事を担当させて頂くコハクと申します。皆様に隠世の魅力をたっぷりと味わってもらう為に、今日の夕食は、私の得意料理を詰め込んだ重箱を用意させていただきました。存分に隠世の美味しい素材を味わってくださると嬉しいです。では、私はこれで失礼します。」
そう言うと、コハクさんはササッと出て行ってしまった。
残された私と愛音は、豪華な重箱に目を奪われて料理を前に息を飲む。それに対して、鬼神様と水無月は普通に食事を始めた。
「う〜ん、この海老フライ、衣が薄くて、岩塩と味がマッチしていて美味しいわ」
「それは遥の二番目に得意な料理だ。ちなみに僕のおすすめはこの卵焼きだよ」
「えっ!どれどれ……う〜ん!鰹の出汁がよく効いていて、口の中にふわっとした優しい甘みが舞う〜」
「う〜ん!ねぇ、この刺し身も、身が締まっていて口の中で溶けて美味しいよ!」
「このなめこ汁も美味しい」
「これを食べられるなんて、鬼神様が羨ましすぎる」
「それは、コハクも喜ぶだろう」
私達は、コハクさんのあまりに美味しすぎる料理に心奪われ、あっという間に感触してしまった。その後、紅茶の氷を削ったかき氷に果肉たっぷりの苺ジャムを乗せたかき氷を食べて、更に心奪われてしまった。
そしてその後、私達はお風呂や女子会を楽しんで、夜の11時を回った頃に、ふかふかのお布団の中でぐっすり眠ってしまった。
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