いざ隠世へ

 夏休み初日の昼下がり、私はちびっ子あやかしたちと縁側でかき氷を食っていた。

「う〜ん、やっぱり夏はかき氷だね〜」

「桜さんのかき氷は世界一美味しいです〜」

「銀兄の練乳とお菓子のかき氷も意外と美味しいぜ!」

「おい生意気狸!意外とって何だ?意外っとって、俺の自信作なんだぞ!」

「見た目が悪いからでしょ?」

「見るからにやばい食べ物です」

「見た目がグロいでしゅ」

「そんなもん食べてもらっただけで感謝でしょ」

「もっとキレイに盛り付けろ」

「あぁっー!もう分かった。もっと丁寧に作れってことだろ!今作ってきてやるから待ってろ!」

「ええっ、もういらない」

「桜お姉ちゃんのだけで満足だよ」

「銀兄の不味い食べ物で、桜お姉ちゃんの味を汚したくない」

「ふん、そんなの知ったことか!無理矢理にでも食わしてやる」

そう言い去ると、銀は台所へと走っていった。

 残された私達は、家の近くを流れる小川で水遊びをして遊び始めた。


 少しして、背後からだらかの視線を感じたので振り向くと、そこに鬼神様が立っていた。

「あっ、鬼神様居られてんですね。気づきませんでした。」

「ああっ、誰も気づいてくれないから皆いつ気づくかな〜?って思って待っていたんだ。」

「いつから居ました?」

「30分前からだ。皆僕のこと気づいてもいいはずなのに、気づかないんだよね。僕って存在感薄いかな?」

「どうなんでしょうね?」

「そこはそんなことないって言って欲しかったんだがな」

「おーい!ガキ共かき氷出来たぞ!」

「わぁーい!」

「今度は美味しそう」

「皆順番に取っていけよ」

「は〜い」

「僕にも一ついいかな?」

「あっ…いたんすか?」

「…何か傷ついた。」

「ええっ〜と、取り敢えず私の分を鬼神様にあげる。」

「……」

「そんなに気にしなくても大丈夫じゃないかな?」

「そっ、そうっすよ!影薄いのはいつものことでしょ」

「あっ、銀それ言っちゃ駄目!」

「あっ、あははっ…鬼神様は僕らにとって神、大切な神様ですから眩しいくらいっすよ!」

「お〜い!銀!」

「あっ、姐御!ちょっと鬼神様を持ち上げて下さいよ!」

「あっ、いたんだ。」

「うぅっ…もうお前らなんか知らない。せっかく夏休みだから隠世に連れて行ってあげようと思ったのに」

「はっ?隠世に?なんかそれ楽しそ〜。よし!愛音と水無月も呼んでこよっと!」

「隠世。懐かしいっすね。また行きたいな〜」

「何でお前らは僕の気持ちを無視するんだい?君たち巫女だよね?僕のこと本当はどう思っているんだい?」

「何だい?鬼神よそんなにしょぼくれて、それじゃいつもの威厳はどこ行ってしまったんだい?」

「暁!僕は傷ついているんだよ!」

「それじゃ、この姐さんと一杯やるかい?ちょうど美味しいお饅頭もあるんだよ。愚痴を全部はいちまいな」

「ああ、悪いがそうさせてくれ」

そんな訳で、私は、愛音と水無月の予定を電話で聞いて、鬼神様は暁に愚痴をこぼしまくって、初日は終了した。



それから一週間後

 今、あやかし神社のある山の頂上には、大きな宙船が停まっている。普通の人間がこの光景を見たら腰を抜かしかねないほどおかしな光景だが、うちらには普通だ。てか馴染んでしまっている。

 ちなみに、今回桜、銀、天兄、暁達はお留守番だ。だから実質私達仲良し三人組だけがいくことになった。


「九紫楼様、何が起こるか分からないので、本当は私と銀も行けたら良かったのですが、あいにく天様の大事な会合についていかなければならないので、ついていけれない事。本当に申し訳ございません。」

 縁側で靴を履いていると、桜が涙ぐみながらそう言って私のところによって来た。

「いいよ桜、天兄の会合の方が大事なの分かるし、桜と銀がいつも私の事大事に思っているのも知っているから。それに、たったの一週間ここを離れるだけだし、私には鬼神様と頼れる仲間が着いてらからね。だから、旅行話を楽しみに、お留守番よろしくね。」

「はいっ!」

「九紫楼、鬼神様に迷惑かけるなよ」

「うん、分かっているよ銀!じゃ、そろそろ行くね。」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「行ってきま〜す」

 私はそう言うと駆け足で、宙船の渡場まで走っていった。そして、最後にもう一度振り返って二人に手を振った後、船に乗りこんだ。



「さあ君達、準備はいいかい?いちよ行く前に最後の確認にをするよ。今回の旅行で、君達は隠世で一週間滞在する予定です。その為の荷物は全て詰め込みましたか?あと宿泊場所は僕の邸宅。滞在中は、必ず土地勘のある信頼出来るあやかしと行動する事。良いかな?」

「はい、全て大丈夫です。」

「ふふっ、鬼神、否、妖王の邸宅に宿泊か…久しぶりだな」

「水無月…お前今清明モードか?」

「秘密だ」

「皆、準備はOKみたいだね。じゃあ…」

「鬼神様!隠世に早く行こ!」

「隠世にさあ出発進行!」

「あはは…っ、ゴホン、操縦室、船を出してくれ」

「はい、了解しました。」



 そして、私達全員が乗り込んだ宙船は、ゆっくり上昇していき、隠世へと出発した。


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