土御門 水無月



「九紫楼さん、桜さん、銀さんこんばんわ。あやかしの縁日とは、賑やかで楽しそうですね。」

「……」

「えっ!土御門さんと愛音ちゃん!?どうしたここいるの?」

「ふふっ…今日三人とも学校をお休みになったので、御見舞を兼ねて遊びに来たのですわ。」

「私は…昨日の和音様のことで謝りに…」

「ふ〜ん、取り敢えず、二人とも一緒にお祭りを楽しみましょ!うちのあやかしたちがきっと喜ぶわ!」

「えっ!いいんですか!?じゃお言葉に甘えて♡」

「…あざとい…流石、水無月。そういうところ、ホント土御門家の人だよね…。」

「う〜ん?間桐さんなんか言った?」

「…いいえ!何でもないですよ…」

「二人とも早く早く!」

「は〜い、行きま〜す!愛音も早く早く!」

「…はっ〜、行くわよ!行けばいいんでしょ!」


 二人が登ってきた後、桜と銀は用事のために私の側から離れ、私達三人は、屋台を回ってお話したり笑ったりして、親睦を深めて、すっかり友達と呼び合える関係にまでなった。

 

 私達が屋台を回りきり、最後にかき氷を食いながら話している時、少し酔いの回った暁姐さんが、私達のところに近づいてきた。

「あら?九紫楼、その子達は学校の友達かい?」

「えぇ、私の友達の間桐 愛音ちゃんと土御門 水無月ちゃんよ!」

「…はっ!土御門?……はっ!なんでお前が九紫楼の近くにいる訳?何が目的だ?」

「えっ…暁…さん?」

「…ふふっ、友達として親睦を深めていただけですわ。それ以外に目的なんてありませんから、そうピリピリなさらないで、女郎蜘蛛の暁・さ・ん♪」

「…ちっ、今日の所は九紫楼に免じて見逃すけど、もし九紫楼に何かあったら、許さないから覚悟しておきなさい。…じゃ、九紫楼、精一杯祭りを楽しみなさい。」

「…えっ?なんか突然のことでびっくりしたけど、何が起こったの???水無月ちゃん、どういう事???」

「ちっ…、その説明は、私がするよ!」

「愛音ちゃん?」

「コイツの家、土御門家は、陰陽庁。つまり、この国のあやかしを取り締まる、まあ、警察みたいな組織のトップだ。だが、嫌われている理由は、そこはじゃなくて、昔のあやかし退治のやり方と、その厄介な性格が原因だ。そして、コイツ、水無月はそんな陰陽庁の次期陰陽庁長官…嫌われるのも仕方ない運命を背負わされた惨めな子だ…。」 

「…愛音?私は惨めな運命とか思ったことないわよ?私は産まれた時から、父上のように成るために育てられたのだから」

「はぁ…、何でこんな奴と幼馴染なんだろう?」

「私と幼馴染は嫌かい?」

「いえいえ、めっそうも御座いません。私達間桐家は一生あなたについていきます。」

「よろしい!」

「…つまり、この京都のあやかし達を監視しているトップって事?」

「うん…?まあ、そんな感じね!」

「水無月様、鬼神様がお呼びです。」

「ええ、今行くわ。じゃ、私はここで、あとは二人で楽しんでね。」

そう言うと、水無月は式神の白狐とともに、鬼神様のところに行ってしまった。

「…なんか、凄い運命を背負った子だって分かった。私も敬ってあげたほうがいいのかな?」

「まっ、すごい運命を持った子だけど、私たちは特別扱いしないほうがいいよ。周りから特別扱いされ過ぎて、あの子は口には出せないけど、本当は普通に接して欲しいと心から思っているんだから…」

「…うん、そうだよね。普通が一番だよね!」

「九紫楼様!愛音さん!そろそろ花火が始まるので、展望台に来て下さい!」

「あっ、銀だ。は〜い!今行きま〜す!」

 そう普通が一番、そこそこ気が抜ける時間がなければ、生きていくのって大変だよね。



 私、土御門 水無月は生まれたときから呪われている。私の前世は安倍 晴明。そう、誰もがその名を知っている大陰陽師だ。それ故に、私は、小さい頃から神のように崇められて育った。そんな私が唯一心から安らげたのは、幼馴染である間桐 愛音といる時だけだった。

 彼女は、私の家、土御門家仕える四神の一人、文武に拾われて育てられた元捨て子だった。それ故に、言葉遣いも乱暴で、忠誠心なんて持ち合わせていなかった。そんな彼女を私は見た瞬間、気に入って、必要以上に嫌がらせをした。彼女が私の友達になってくれるまで、ずっと続けた。今思えば、あの頃の自分は、相当捻くれていたと思う。

 

 ある日、うちの家で四神を招いての宴をやっていた事があった。その時、私は誤って乗っていた船から落下して、池の中で溺れかけてしまった事があった。その時、周りの大人達は、私が晴明の生まれ変わりだからと、私を助けていいのかと迷い、ただわめいていただけだった。私はあの時、そんな助けてくれない大人たちに心底絶縁して、このまま死にたいとすら思った。そんな時、愛音が私を助けるために、自分も泳げないのに飛び込んできてくれた。それが私には嬉しかった。

 その後、一葉様に救われて、自分の部屋で着替えた後、捻くれていた私は、彼女にどうして助けたのかと怒鳴りながら聞きに行った。すると、彼女は、

「だって、私達友達だろ?水無月のピンチを、友達が救ってやらなくてどうするんだ?」

と不思議そうに返してきた。あの時、私は人生で初めて幸福というものを味わったと思う。


 そうこう昔のことについて思い出しているうちに、鬼神とその仲間の集う客間についた。桜さんが静かに襖を開けてくれて、さっき会った暁と、九紫楼の叔父の天さんと目があった。その奥で、鬼神と天狗頭の天音さんが、目を閉じて静かな威圧をかけてきていた。私は少し額に冷や汗をかいたが、自分に次期陰陽庁長官だと言い聞かせて、勇気を出して中に入った。

 

 部屋に入ると、天さんは、こんな緊張するような場でも、明るく私に座布団を勧めてきた。右斜め横に座る暁の目は、今にも私に襲ってきそうだ。いつの間にか目を開けて、私をまっすぐ見つめ始めた天音さんの目は、私の心まで見透かしているようだった。


 私がこの場の空気に押しつぶされそうになりながら、話が始まるのを待っていると、鬼神がゆっくりと目を開け、かつての獰猛な鬼だった頃の様な、闇に引きずり込むような漆黒の目で、私を見つめ、ゆっくりと口を開け始めた。

「初めまして土御門 水無月さん…、単刀直入で悪いが、何故、今、陰陽の次期トップであるあなたが、九紫楼に近づく必要があるんだい?…九紫楼はまだ、ただの何も知らない女の子だ。」

「…ふん、知れた事を…。鬼神よ、お主ももう気づいておるのだろう?…彼女は、普通の少女ではない。この意味を一番分かっておるのはお前だ。…まあ、今はその事はいい、私はただ純粋に、彼女の友達になりたいだけだ。…だが、お互い、いつかは覚悟しなければならない時が来るかもしれないな…。」

「あぁ…そうだな。…そうならないことを僕は願っている。」

「…まあ、そうならないように努力してくれ。私達も、出来る事があれば協力する。…これは、友達としての意味だ。裏とかはないから、安心して相談するがよい。…では、これ以上話がないなら、私は展望台に行ってよいか?九紫楼たちと花火が見たいのでな。」

「…水無月さん、九紫楼の事、どうか宜しくお願いします。あと、展望台までの夜道は危険なので、エスコートしますよ。」

「えぇ、ご親切にありがとうございます。」

「ちっ…この小娘ごときが…」

「ふ〜、久しぶりにこんな真面目な顔したから疲れちゃったぜ!さぁ、酒持ってこい!今日は沢山飲むぜ!暁ちゃんも一緒に飲もうぜ!」

「は〜、悪いけど今はそんな気分じゃないんだ。あたいも九紫楼のところに行くよ。」

「え〜、じゃ、俺も九紫楼のところに行く!てか…俺も実は、酒飲む気分じゃないし…」

「は〜、分かっているよ!あたいのためにいつも気を使ってくれたわだろ。悪いね!さっ、私達も展望台に行きますか…」

「おう!」


(展望台への道中での会話↓)

「ふぅ…あんたって、昔からチャラいけど、仲間思い出でいいやつだよね。」

「ははっ!そうだろ〜!俺の嫁になってもいいんだぜ!」

「ちょっ…天音さん!それはどういう意味ですか?暁に手を出したら、僕が許しませんよ!」

「はいはい、天は分かりやすく反応しすぎ!陰陽庁がすぐ近くにいるのに、危機感なすぎでしょ!」

「天音さん!僕をからかったんですね!許しませんよ!」

「あっ!痛!天、てめえよく俺を殴ったな!」

「こらこら、二人とも喧嘩はやめろ」

「ふふっ、鬼神さん。面白くて、頼りになるお仲間ですね。」

「ははっ、羨ましいですか?…ふぅ、これが彼女がずっと求めた幸せの形で、だからこそ、僕が守っていきたいものなのですよ。」

「…きっと、あのお方が生きておられたら、幸せだと自慢しておられたでしょうね…。

…なぁ、鬼神よ。もし、私が、まだ君を友と呼んでいいなら、一つ質問をしてもいいだろうか?」

「…ああ、何だい?我らの古き友よ?」

「ははっ、相変わらずお前は優しいな。…なぁ、もし、もし私が、あの時、もっと早く奴らの裏切りに気づいていれば、姫を助けられたと思うかい?」

「…それはどうだろうな?…だが、もし君がもっと早く気づいていたとしても、あの頃の僕達には敵が多すぎた。だから、変わらなかっただろうな。…それより、今大切なのは、二度と同じ事が起こらないようにすることなんじゃないかな?」

「…ふっ、そうだな。」

「お〜い!水無月ちゃん、鬼神様早く早く!そろそろ花火始まっちゃうよ!」

「は〜い!今行くよ!」

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