二人の従者と九紫楼


 "…約束するよ。たとえ百年千年経とうと、僕は必ず、君を見つける…。"



「約束?…はっ!…なんだ夢か。ふぁ〜にゃ、今日もお日様が眩しいな……そうだ!ここはどこ⁉…ふ〜、自分の部屋か。」

「九紫楼様、目覚められたのですね。おはようございます。よく眠れましたか?昨日は、九紫楼をお守りできなかった事、大変申し訳ありませんでした。」

「何もなく無事に帰ってこれたから良いわよ。それより…桜、いつもなら一緒にいる銀の様子が見えないけど、銀はどこにいるの?」

「あぁ…それが、昨日の事に負い目を感じてしまって、只今、山の頂上にある洞穴の中にひきこもっております。…ああ、勿論!鬼神様や天様もお止めになったのですよ!しかし、本人が…」

「桜、私、その洞穴に行きたいわ!今日はもう学校に間に合わないだろうし、洞穴に興味があったのよね。それに、銀も私に許してもらったと分かれば、戻ってきてくれるでしょ!」

「…九紫楼様」

「うん?どうしたの桜?じっと見つめちゃって」

「えっ!いえ…何でもないですよ。ただ…護れなかったかつての主の笑顔を思い出しただけです。」

「かつての主?ねぇ、その話聞かせて!」

「えっ!ですが…」

「辛い?」

「はい…今でもあの方を思い出すと涙が出て来ます。」

「…桜、辛い時は泣いてもいいんだよ」

「えっ!それは…」

 私は腕を広げて、桜を優しく包み込む。すると桜は、気が抜けたせいか、子犬の姿となって膝の上で泣き出した。

(多分、私を連れ去られて、ずっと気を張っていたのだろう。)

そう思い、私は、桜をそっと撫でてあげた。フサフサの毛が気持ちいい。思えば、桜をなでてあげるなんて不思議だ。今度からたまに撫でてあげよう。ついでに銀も…。


数分後…

「あっ!九紫楼が桜ちゃんを泣かせてる!」

「…普段人前で泣く姿を見せない桜が人の膝の上で、しかも子犬の姿で泣くなんて、珍しいこともあるものですね。」

「九紫楼様最低でしゅ!」

「桜を泣かすとは…九紫楼様はやはり只者ではないでござるな…」

そう言って私の部屋に入ってきたのは、天狗頭の天音さん、その補佐役の朱雀さん、手鞠河童の子どものチビ、そして、鎌鼬のサスケ君だ。

「何よあんた達、私を見舞いに来たんじゃないの?なんでそんな目で私を見るのよ!」

 私が騒いだ事で、いつの間にか膝の上で寝むってしまっていた桜が、膝の上から落下してしまった。桜はかなり疲れてたのか、落下したことにさえ気づかず、そのまま寝っている。私は、急いで桜を膝の上に乗せ、そっと撫でながら、さっき入ってきた四人を睨んでやった。

「…まあまあ、女の子がそんな怖い顔するもんじゃなよ。桜がその姿になった理由は、俺でも大体察しがついてる。からかったことは、すまねえ。これ、お詫びの酒だ。」

「天音様!それは天様への手土産です。九紫楼様のはこちらです。」

「あぁ、悪い朱雀、気を取り直して、これが見舞いの品だ。これはうちの山で採れるいい地酒を使った酒饅頭だ。もちろんアルコールは抜いてあるから九紫楼でも食えるぜ!」

「はぁ(それってただの饅頭よね)…まあ、ありがたく頂きます。」


 その後、多くのあやかしたちが私を見舞いに来た。天兄は、仕事の合間にちょこちょことやって来た。


 そろそろお腹が空いた頃、天兄が、桜とうどんを作って持ってきてくれた。私はそれをありがたく頂いた後、銀のひきこもっている洞穴に行ってみることにした。

 面白そうと、神社の周辺で遊んでいた子供のあやかし達もついでについてきた。


 洞穴までの山道は、本当に探検をしているように、獣道を頼りに山を登って行くしかなかった。途中、木のつるに足を引っ掛けて転んでしまういそうになったが、なんとか洞穴に辿り着けた。

 洞穴は縱2メートル、横1メートルと広くて、奥深くまで迷路の様に続いていたが、銀がよく遊んであげている子が、先頭を歩ってくれたおかげで、短時間で銀を見つける事が出来た。

「…銀?九紫楼よ…鬼神様や天兄も言っていたと思うけど、昨日の事で、銀が気に病む必要なんてないのよ。だから、戻って来てくれないかな?みんな心配しているのよ。」

「九紫楼様!…すいませんが、それは出来ません。僕はあの時、九紫楼様の一番近くにいました。なのにまた、お守り出来なかった。こんな僕は、従者失格です!」

「そんなことないわよ!」

私は、小さな子狐姿で、背中を見せながら震えている銀を、そっと抱き上げた。

「なっ!九紫楼…さ…ま???そんな!止めてください!」

銀は、私の腕の中で暴れまわったが、私がぎゅっとした。すると、だんだん大人しくなった。

「…銀、これは主としての命令よ。貴方が嫌だと言っても、私はあなたを必ず連れて帰るけど、私の側に戻ってきて」

「コン…貴方は、変わらず優しい主様ですね。…分かりました!僕は貴方の命令に従って戻ります!」

私は、銀の艶々な毛並みを撫でて褒めてあげた。九本の尻尾がわさわさと揺れて、可愛いかった。


 その後、私は銀を抱いたまま山を降りた。途中、酔っ払いの暁姐さんに襲われそうになったが、無事神社に戻ってこれた。


 夕方、桜と銀と厨房で料理していると、鬼神様がふらりと現れた。

「九紫楼…、どうやら元気になったみたいで良かった。和音様の妖術で深い眠りに落ちた事で、だいぶ疲れがとれだろ?」

「まあ、そうですね…でも、ぐっすり眠ったおかげで、このとおり元気もりもりです。感謝しないと」

「ふっ、君は変わっているね。しかし、かずね様は執着心が強いお方だ。だから、あまり関わってほしくないのが僕の本心だ。…ああそうだ!九紫楼、ちょっと外においで、面白い物が見らるよ。」

「えっ?何ですか?」

 

 私が外に出てみると、そこにはズラーと屋台が並んでいて、縁日が開かれていた。あやかし達が、お喋りをしたり、食べ物を買って食べたりと、まるで人間の縁日みたいな光景が広がっていた。

「どうだい?驚いたかい?これが昨日皆がやろうとしたことだよ。まあ、和音様のおかげで延期せざるおえなくなったけど、九紫楼、喜んでくれたかい?」

「…はい、勿論嬉しいです!ありがとうございます!」

私は満面の笑みを鬼神様に見せつけた。それに鬼神様も微笑みで返してくれた。


「九紫楼様、九紫楼様、金魚すくいやりませんか?」

「九紫楼様!チョコバナナはいかがですか?」

「ええ!勿論!ありがとね」

「九紫楼!私と射撃で勝負しないかい?」

「あっ、暁姐さん!その話面白そうとですね。やりましょ!あっ!じゃあ、負けた方は相手に何かするっていうのはどうです?」

「あっ!その方がやり甲斐がありそうだね。う〜ん、そうだね?じゃあ!負けたほうが、今度喫茶店で奢るっていうのはどうだい?」

「ふふふっ、その話、面白そうとですね。良ければ、私も仲間に入れて下ださいませんか?」

「えっ?なんか怖いよ桜」

「まぁ、人数が多いほうが楽しいしいいんじゃない?」

「是非」


 私達三人は全員一歩も引かない熱戦を繰り広げ、最終的に暁姐さんが負けて、私と桜に喫茶店で奢ることになった。


「はぁ〜楽しかった。桜、あなた以外にああ言うの得意なのね!ちょっと以外」

「ふっ、姉貴は昔から、縁日のゲームで手を抜かないからな…俺なんてまだ一回も勝ったことないぜ!」

「それは…銀が弱いからよ!」

「ふふっ、真面目な桜がそんな事言うなんて、今日は熱でもあるんじゃないの?」

「やはり、駄目ですか?」

「いいえ、私的には、普段からそれでいいんだけどな〜。せめて私の前だけでも」

「それは、失礼になりませんか?」

「その方が桜と気楽に話せて、私が良いの!」

「ですがやはり…」

「お願いだから、友達のように気楽にいて、私の為に」

「…努力はします」

「よろしく、桜!」

「はいっ!」

「…あっ、あの〜九紫楼様?楽しく盛り上がっているところ悪いのですが、神社の入り口に、九紫楼様に会いたいという人達がいらっしゃっています。」

「えっ…誰かな?とりあえず豆腐小僧君、知らせてくれてありがとう」

「いえいえ、構いませんよ。それでは、僕はここで。」


 豆腐小僧と別れた後、桜と銀と神社の入り口に行ってみると、そこには意外な二人組が立っていた。



「九紫楼さん、桜さん、銀さんこんばんわ。あやかしの縁日とは、賑やかで楽しそうですね。」

「…」

                 

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