転入日〈後半〉
授業後、私は級長の土御門 水無月さんに案内してもらって、部活見学をした。その途中、亜の大木の下で、読書をしている子を見かけて気になったが、その時はスルーした。
見学を終えて、土御門さんと別れた後、私は、教室で待っていてくれた桜と銀と合流して、帰るために正門を出ようとした瞬間、また、あの子を見つけた。その誰も近づけさせない感じが、少し昔の自分と重なって、気になったから声をかけてみた。
「ねぇ、貴方、同じクラスの間桐 愛音さんよね。ずっとこの木の下で本読んでるけど、読書が好きなの?」
「九紫楼さん、私に声をかけない方がいいわよ。私、みんなから避けられているから、みんなと仲良くしたければ、私に関わらないで。」
「読書の邪魔しちゃってごめんね。あなたの姿見て、昔の自分を思い出して、気になって声かけたの。お節介だったらごめんなさいけど、私と友達にならない?一人は淋しいでしょ。」
「見えないくせに…余計なお世話よ!さっさと帰りなさい。あなたの家、遠いんだしょ」
「ふふっ、またね。愛音ちゃん!」
「誰が友達になると言ったわけ?私はあなたみたいな子嫌いよ。」
「バイバイ、また明日」
私は、少し愛音ちゃんをからかうのが楽しかった。あの子も、私みたいに居場所が見つかるといいな。
帰り道、大通りの信号を渡ろうとした時、腰の曲がった黄金色の着物を着た御老人と、今時珍しい、白い浴衣を着た。髪の毛も肌も、全身白で統一した少女のペアが気になった。二人は、ゆっくりと信号を渡っていて、そのうち信号が変わってしまいそうだ。
「ねぇ、桜、銀…」
「九紫楼の言いたいことは分かったぜ!俺がおじいさんをおぶるから、姉さん、荷物は任せたよ!」
「私が、あの御老人の荷物持つから、桜、私達の荷物お願いね。」
「はい、お任せ下さい。二人とも気をつけてくださいよ!」
「は〜い!」
私と銀は、二人のところに行って、事情を話した後、銀が御老人をおんぶして、私が大きな荷物を抱えて、急いで信号を渡った。
「ありがとう、助かったよ。今時の若者はいい人たちが多いくて良いな、和音」
「はい、そうですね一葉様。そうだ!御三方暇でしたら、ちょっと家に寄って、お礼をさせて頂けませんか?」
「すみませんが、九紫楼様は、暗くなる前に帰らなければなりませんので、感謝のお気持ちだけで結構でございます。」
「少しだけでもなりませんか?」
「悪いが、駄目なものは駄目だ。」
「ならば、仕方ありませんわね。」
和音さんは、ニコッと笑ったまま、急に私の腕を強く掴み、当然出現した穴に、私を引きずり入れようとした。桜と銀が、人間の姿を解いて私を摑もうとしたが、私は引きずられるままに和音さん達に連れ去られた。
目が覚めると、私は、座布団を枕にして寝かされた。起き上がった周りを見渡してみると、どこかの家の居間のようだ。私が携帯を取り出して、天兄に電話をかけようとした時、和音さんがお茶と和菓子を持って、居間に入ってきた。私は、急いで携帯を隠す。
「あの…和音さん?これはどういうことですか?てか、あなた達は、何のあやかしなのですか?」
「ふふっ、九紫楼さん突然連れ去ってしまいごめんなさいね。私と一葉様は、あやかしではなく、この京都を守る四神の一人、玄武です。」
「えっ!玄武って…あの京都の北を護る、カメに蛇が巻きついた姿の守護神ですか?」
「えぇ、大地を振動させるほどの大蛇で、『生殖と繁殖』を意味する私、和音と、大地の振動を抑える役割をしている亀で、『長寿と不死』を意味する一葉様。二人合わせて北を護る
「でも…私、帰らないと、神社の皆が待っているんです。」
「心配しなくても大丈夫、そのうち鬼神が迎えに来るわ。それまで私とお話しましょ。」
私は、蛇に体を縛りつけられているような不思議な感覚に襲われた。そして、和音様の目は、捕まえた獲物は逃さない蛇の目だった。私は、仕方ないので、鬼神様が来てくれると信じて、待つことにした。
「いい選択よ。さあ、何を話しましょうか?」
「逆に、何を聞きたいですか?」
私達は、お互いの表情を見て、相手の考えを探りながら話した。緊張で、どんな話をしていたかは思い出せないが、相手に教えてもいい話だけを明かした。
一時間後、玄関の扉が、ガラガラ…と開く音がして、少女の声がした。
「和音様、一葉様、ただ今戻りました。さっき庭先で、"鬼神"って名乗る男の人に出会ったんだけど、和音様、また誰かを連れ去ってきたの?」
居間の襖が開けられる。
「和音…さ…ま…?なぜこの子がここに居るんですか!?」
「貴方って…愛音ちゃんだよ…ね?玄武様の神社の子だったの?」
「そういうあんたは…北東の鬼神の神社の巫女だったの…。和音様?これはどういうことですか?」
「動揺しているところ悪いが、和音様、うちの巫女を返してもらいますよ。」
それは、今まで見たことのない鬼神様の姿だった。その重たく、冷たく突き刺さるような眼差しは、鬼神と呼ばれるだけはあった。
それに対して和音様は、私を、まるで自分のぬいぐるみのように抱き込み、不敵な笑みを浮かべながら、鬼神様を見ていた。
「あっ、あの…」
「お主にはこの娘は惜しい存在だ。私にくれないかい?鬼神君?」
「それは許しませんよ。いくらあなたが私より位の上の神だとしても、九紫楼はうちのものです。」
「ふふっ、まあ今は良い。九紫楼、お前がこの鬼神の裏の顔を知るのを楽しみに待つとするよ。その時は、うちに来なさい。いつでも歓迎するわ。」
そう言うと、和音様は私のほっぺたにキスをした。私は、驚いて、顔がりんごのように火照ってしまった。愛音ちゃんは、和音様のその行動を見て、居間から去っていった。鬼神様は、以前として冷たい眼差しを和音様に向けている。
(この人の裏の顔って、何なんだろう…?)
しかし私は、当然の眠気に襲われて、そのまま眠ってしまった。
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