引っ越し

 私、神藤 九紫楼は、京都に向かう新幹線の中で、父に捨てられたというショックと、これからどうすればいいのかという葛藤で心が張り裂けそうになっていた。

 そんな私をよそに、隣で叔父はよく眠っている。昔からこんな感じの人だったが、いざこれから親代わりになる人だと思うた心配になってくる。でも、きっとこれが叔父なりの優しさなのだと言うことは分かっている。


   "まもなく京都に着きます。…"


 京都が近づいてきたので、叔父を起こした。叔父は呑気に背伸びをする。私は、そんな叔父をよそに、近づいて来た京都の街を車窓越しに眺めてみる。

(あぁ…今まで、意識してみていなかったけど、車窓越しでも歴史的なものがこんなに見えたんだ)

少し新しい生活にワクワクしてきた。

(これから私は、どうな人やあやかしに出会い、どんな発見をするのだろう。そして、私はこの街を好きになれるかな?)

「九紫楼(クシロ)!そろそろ降りるから支度した方がいいよ」

「言われなくてもわかってるよ。それに、今まで寝てた天兄に言われたくないし!」

「あはは…」


 京都駅に降りた私たちは、タクシーに乗って北東に移動していく。天兄(叔父)は、私に色々見せたかったみたいだったが、私は、「引っ越しの準備があるから」と言って断った。

 

 二人を乗せたタクシーは、北へ北へ移動していく。古い町並みはだんだん少なくなっていって、どんどん木々が増えていく。

そのうち、夕日に照らされた山の頂上付近に、大きな鳥居が見えてきた。

 実のところ、私は、まだ母の実家であるこの神社には、一度も訪れたことがない。父側の家が、ひどく嫌っていたそうだ。

 

 初めて来た母の実家は、長い階段を登った先にある大きなお屋敷だった。古くから続く神社で、前世と隠世を繋ぐ鬼門を支配している、鬼神を祀っているそうだ。

 私は、想像していた以上に格式の高い神社だったのでびっくりした。そして、そんなすごい神社を、まだ二十代の天兄が背負っているのが信じられなかった。

「九紫楼、早く中に入らないとあやかしに食われるよ」

「分かってるわよ!でも、想像していた以上にすごい神社ね。こんなところの神官が天兄で大丈夫なの?」

「アハハ…僕もそう思うけど、僕が一番適任だからって…」

「へえー、適任ね…まあいいんじゃない。どうせ就職も難しかったんでしょから」

私はニヤリと悪い顔をしてみた。天兄は苦笑しつつチラッと後ろを見た。私も気になって天兄の視線を追うと、小さな子どもが二人こちらを覗いていた。

「桜、銀こっちにおいで、この子は僕の姪の九紫楼だよ」

「はじめまして、今日からこの神社にお世話になる姪の九紫楼です。よろしくお願いします。」

「九紫楼様、ようこそおいでくださいました。私はこの神社で、天様のお手伝いをさせて頂いております、使用人の銀です。」

「九紫楼様、お初にお目にかかります。銀と同様にここで働かせて頂いている桜です。ちなみに、銀の双子の姉です。」

そう言って、挨拶してきた子どもは、九尾と狐の耳をはやした大人の男性と、狗の耳に尻尾をはやした美女に姿を変えてお辞儀してきた。


「えっ…あなた達あやかしなの⁉」

「はい、私は狛犬のあやかし」

「僕は、九尾の狐のあやかしです。」

「九紫楼、ここは別名あやかし神社と呼ばれる神社なんだ。そして、今日から君はこの神社の巫女だよ。」

「…」

私は、巫女となることは分かっていたが、あやかしの集まる神社の巫女となることにビックリて言葉が出なかった。

 混乱して何も言葉が出ない私を、桜は何も言わずに部屋に案内してくれた。

「九紫楼様、今日はお疲れだと思いますのでゆっくりお休みください。御夕食は後ほど、お部屋にお持ちしますね」

「…ごめんなさい。私食欲ないから、今日はもう寝るわ」

「承知しました。では、お腹空いたときのためにお饅頭を置いときますね。」

そう言うと、桜は、布団を引いて静かに去っていった。


 残された私は、今日一日いろいろあって頭の収拾がつかな区で混乱していたので、とりあえず寝て頭のなかをスッキリさせる事にした。



次の朝

「う〜ん、よく寝た。今日から巫女の仕事頑張るわよ!」

「ハハッ、朝から元気ですね。昨日の撃沈ぶりはどこにいったのやら」

そう言って、私をからかってきたのは少年姿の銀だ。

「うん、寝たら全てどうでも良くなっちゃった。今日から宜しくね。銀」


 

 

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