第192話 家族(1)
慌しく
東京に戻り、また同じ毎日が始まる。
「あ、どうも・・式の時はありがとうございました、」
八神は出社して志藤と南に頭を下げる。
「なんか慌しかったけどな、」
志藤は笑う。
「はあ・・もうバタバタと過ぎて・・ようやく落ち着けそうです、」
「いやいや、まだ来週があるから!」
南が嬉しそうに笑った。
「え? 来週??」
「忘れたの? ウチでパーティーやることになったやん、」
そういえば・・
そうだった。
八神はちょっとだけゾッとした。
「美咲ちゃんのドレスとかはもう準備オッケーで。 ちゃんとねえ、友達のスタイリストさんに仕度も頼んだし! 八神もちゃーんと王子にしてあげるからね、」
不気味に微笑まれ、
「や・・ほんっと・・おかまいなく、」
顔をひきつらせて笑った。
「こんにちわ~、」
八神は真尋の家にやってきた。
「あ~、慎吾だあ~、」
竜生と真鈴が走ってくる。
「おみやげ買ってきたぞ~。 ケーキ。」
と箱を見せる。
「わーい!」
すると奥から絵梨沙が出てきた。
「あ、いらっしゃい。 こんにちわ、」
「ああ、こんにちわ。 真尋さんはもう取材の仕事にでかけました?」
「それが・・」
リビングに行くと、
「あ! ケーキだっ!」
その真尋が子供たちのリアクションと同じように飛びついてきたので、
「まだいたんですか? ちょっとも~、4時からって言ってたのに、もう3時だし、」
八神は時計を見て言った。
「渋谷だろ~? 1時間ありゃ、楽勝だし。」
「おやつ食ってる時間はないと思いますけど? もう行っちゃったかと思って、真尋さんの分のケーキ買ってきてないですよ、」
と膨れると、
「なにっ!!!」
ものすごく怖い顔で言われたので、すぐに怯んで、
「う、ウソですけど・・」
「つまんねーウソつくなっ!」
真尋はケーキの箱を開けた。
「パパ、手あらわなくちゃ、」
竜生に言われて、
「う・・」
手を伸ばそうとしたが、子供に言われて仕方なく手を洗いに行く。
「真鈴もおてて洗いに行こうか、」
絵梨沙が言うが、真鈴はぷいっとした様子で、八神にしがみつく。
「・・??」
不思議に思ったが、
「んじゃあ、一緒に洗いに行こうか、」
八神は真鈴の手を引いた。
真尋はいつものように野獣のようにケーキを食べて、口の端についたクリームを手で拭いて、
「んじゃ、行ってこよーかな~。」
と立ち上がった。
「ちょっともう・・ちゃんと顔くらい拭いてくださいよ・・」
八神は追いかけていってテイッシュで口の周りをふいてやる。
「サンキュ。 じゃーね。」
真尋は行ってしまった。
ほんと
子供らのがよっぽど手がかからない・・
行儀よくケーキを食べる竜生と真鈴を見た。
真鈴がジュースのキャップを開けようとするがうまく開けられない。
「かしてごらんなさい、」
絵梨沙が手を出すが、真鈴はそこにいた八神に、
「しんご、やって・・」
とそれを差し出した。
え?
またもちょっとびっくりした。
「う、うん・・」
フタを開けてジュースを注いでやった。
絵梨沙はそんな光景を見て
ものすごく寂しそうにしていた。
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