第193話 家族(2)

絵梨沙が後片付けをするのを手伝いながら、



「あの・・真鈴、どうかしたんですか?」


気になることを聞いてみた。


絵梨沙はうつむいて、


「・・なんか、最近。 避けられちゃって、」


寂しそうに言った。


「避ける? 真鈴が?」


「ええ。 竜生はここで寝てるんですけど、真鈴は南さんとお義兄さんのところで寝るようになってしまって。 南さんが気を遣って、真鈴にこっちに寝るようにって言うんですけど。」


真鈴が2歳になったばかりのころから


絵梨沙は仕事を再開し、真尋の海外の仕事にもついて回るようになった。


その間、子供たちは


南たち世帯や、祖父母世帯、シッターさんに預かってもらうことが多くなっていた。


絵梨沙は


子供たちよりも真尋についていくことを選んでいる自分に


ものすごく責任を感じ始めていた。


竜生はもう7歳になり、たいていのことはよくわかる。


自分もピアノをやっているので、真尋の仕事も理解し、それにつきそう母の気持ちもわかっている。



しかし


物心がつく前に、その状態になっていた真鈴は


気持ちが揺れているようなのだった。



「・・あたしがいけないんですけど。 母親らしいことしてないし、」


「そんなことないですよ。こうして日本にいるときは、二人の面倒だってきちんと見てるし、」


八神は彼女を励ますように言った。


「自分の仕事はセーブしてきたつもりだけど。 志藤さんからあたしのCDブックを発売するお話を頂いて。 ほんとに好きなときに仕事、やらさせてもらっているだけなのに、嬉しくて。 その仕事に今かかっているので、あまり子供たちと一緒の時間がなくて。」


シンクに溜まった汚れた食器を洗い始めた。


八神はそれを黙って手伝いながら、


「おれ・・1歳の時にじいちゃんが死んじゃって。」


ポツリと話始めた。


「え?」


絵梨沙は彼の顔を見た。


「それから。 オフクロが農園のほうですっごく忙しくなっちゃって。 おれは美咲と同じ保育園に入れられて。 おれの世話は全部ばあちゃんだったって言っていいくらいになってしまって。 3歳くらいのときに、オフクロがたまには、と思って、おれに風呂に入ろうって誘ったらしいんですよ。 そしたら、『ばあちゃんじゃなきゃ、やだー!』っておれ、泣いて嫌がったらしくて。 ぜんっぜん、覚えてないんですけど。」


と絵梨沙を見て微笑んだ。



「その時はねえ・・ショックだったよって、大きくなってからオフクロから言われたことがあります。 子供ってそんなもんなんですよ。 ホント。 周りのことなんかわかりませんから。 真鈴は2歳から今にいたるまで、そうやって育ってしまったから、わからないだけで。 いつか、きっとお母さんの気持ちはわかってくれると思います。 今はちょっと寂しいですけどね、」


「八神さん・・」


絵梨沙は優しい彼の言葉が胸に響いた。


「ほんっと。 なによりも・・あの人が子供たちより手がかかることが問題なんだよなぁ~。 なんとかならないですかねえ、」


と笑うと、


「・・きっと。 子供たちのほうが大人になるほうが早いわ、」


絵梨沙は苦笑いをした。




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