第185話 結婚当日(1)

時計を見ると8時。



「結婚式って・・おまえのっ?」


佐々木は一生懸命、頭の中を整理した。


「大変じゃねえかっ!!」


「大変ですよ!」


「なんで、ゆうべそれを言わないんだっ!」


「それどころじゃなかったでしょう。 お、おじゃましましたっ!」


転がるように出て行こうとすると、


「待て!」


佐々木は彼を呼び止めた。





南と志藤は式の行われるホテルに1時間以上前に着いてしまった。


「わー、ステキなところやんかあ、」


「新しいって言うてたからな、」


「小高い丘の上にあって。 見晴らしもサイコー!」


眼下にはブドウ畑が広がる。



二人は更衣室で着替えて、控え室に向かう。



「なんか全然、繋がらないのよ!」


「もう! いったいなにやってんのかしら、」


八神の両親と姉たちが右往左往していた。


「あ、八神くんのお父さんとお母さん。 本日はおめでとうございます、」


南が挨拶をすると、


「あ・・えっと・・専務さんの奥さんと本部長さん、」


「どうしたんですか? 慌てて。」


「慎吾がまだ来てないんです!」


母のうろたえる顔が・・


「はあ???」


二人は唖然とした。





「あ・・あんまスピード出すと・・危ないんじゃないかな・・」


「ノープロ、ノープロ! 今日、高速、空いててよかったッスね! 絶対に間に合わせますから!」


佐々木社長の次男は


プロのレーサーだった。



社長が八神の事情を知り、絶対に式に間に合わせるようにと彼に命令し。


スポーツカーで高速を飛ばすが


チラっと速度計を見ると


130km/hをさしている・・



いちおう公道だぞっ!!


八神はものすごいスリルを味わっていた。




「ほんまや。 電源切れてる・・」


南は八神の携帯に電話をしてみた。


「今、斯波に電話したら八神、昨日は朝から佐々木精密の社長に会うって出て行って、それっきりだって・・」


志藤が言う。


「佐々木精密? スポンサーの?」


「社長を怒らせちゃって。 それをなんとかしに行くとか言って、」


「も~、なにをやってるねん・・」




美咲はすっかりウェディングドレスを着て、メイクも終わり、式を待つだけだった。


「慎吾・・どうしちゃったんだろ、」


心配で仕方がない。


「大丈夫よ。 きっと間に合う。 あと1時間もあるし。」


「・・慎吾ってば、結局、式のリハにもこれなかったし。 今日は早めに行ってうちあわせするって言ってたのに、」


美咲は口を尖らせた。


そこに


「おはようございます、」


南と志藤がやって来た。



「あ、南さん、志藤さんも、」


美咲は慌てて立ち上がった。


美咲の美しいドレス姿を見て、


「うっわ~、きれい。 めっちゃきれいやん・・美咲ちゃん!」


南は感動して彼女の手をとった。


「ありがとうございます、」


普段の彼女とは全く別人のように(?)清楚な花嫁だった。



「ほんまに。 めっちゃきれいやで、」


志藤も目を細める。


「なんか・・てれるってゆーか、」


肩を出したシンプルなウエディングドレスだったが、華やかな顔立ちの美咲にはよく似合っていた。



「慎吾、まだなんです、」


美咲は南に言った。


「みたい。 八神のことだからさあ、寝坊しちゃっただけかもしれないし。 大丈夫だよ、」


南は美咲を励ますように言った。


「はい・・」


美咲は小さなため息をついた。




南は心配して、ホテルの入り口とロビーを行ったり来たりしていた。


「ちょっと落ち着けって、」


志藤はのんびりタバコを吸っていた。


「だって! あと30分しかないんだよ・・」


「まあ・・運を天に任せるしかあるまい・・」



そこに


係員がやってきて、


「ご参列の方はチャペルのほうに移動して下さい、」




無常にも


声をかけられた。



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