第184話 結婚前夜(2)

「携帯も繋がらないの。 電源切れてて。 今日の午前中、電話あって、ちょっと遅れるとは言ってたんだけど。会社に電話しても、外出してるからって。」


美咲は八神の母に言った。


「しょうがないわねえ、」


「でも、最悪、明日の一番で来ればいいし。 じゃあ、あたし帰るね。」


美咲は八神の家を後にした。




「もっと、飲め!」


「はあ・・でも。 おれ、胆石できちゃって・・しばらくは酒も控えるようにって、」


八神は佐々木社長に飲みに連れて行かれてしまった。


「胆石~~?? そんなジジイみたいな病気になりやがって!」


「おれのせいじゃないですよ・・」




「だからな。 ほんっと・・子供なんて裏切られるために育ててるようなもんだよ・・んっとに、好き勝手言い出して!」


佐々木はすっかり酔っぱらって絡んできた。



このスポンサー降板の話も、


実は社長のアメリカに留学している長男が会社をいきなり継がないと言い出し。


そのことでかなり荒れている時に癇に障ることをしてしまった八神に怒りの矛先が向いてしまったようで・・・



話が見えてきた八神は、腹立たしかったが


なんだか彼が気の毒になってきた。



「そうですかあ・・せっかく留学までさせてたのに・・」


同情してしまった。


「冗談じゃねえっつの・・会社継ぐって言うから! 今まで好き勝手なことするの目えつぶってたのに!・・おまえはいくつだ?」


据わった目で言った。


「え・・29で・・今年30ですけど、」


「そうかあ・・おまえも。 好き勝手なことやって親を泣かしたんだろ~?」


「まあ。 大変な思いをして、東京の音大を出してくれましたから、」


ちょっと両親のことを思い出した。


「そうだろ?? ほんっとに親には感謝しろよ。 ここまで育てるのにどんだけ苦労したか・・」



ちょっと


佐々木の気持ちになって


しんみりしてしまった。



気がつけば。


もう終電もない時間で


帰れなかった・・。



八神は途方に暮れた。


「社長、社長・・。 お宅に着きましたよ。」


酔いつぶれた佐々木を自宅に送り届けた。


「ん・・? ついたか? ・・おい、八神も泊まってけ、」


目をこすりながらタクシーの中で目を覚ます。


「いいえ、ぼくは、」


もちろん遠慮しようとしたが、


「いいから、こい!!」


強引に引っ張り出されてしまった。





翌朝。


抜けるような青空だった。


雲ひとつない晴天。


「わ~~、ほんま結婚式日和やなあ、」


早朝から、勝沼に向かう志藤と南は新宿駅で電車を乗り換えた。


「腹立たしいほどいい天気やな、」


志藤はまぶしそうに顔を上げる。



「ん・・・」


八神はようやく目を覚ました。


すると


佐々木社長の自宅のリビングで寝転がっていた。



はっ・・


思わず声をあげて飛び起きた。


「あ・・朝??? に、日曜日??」


いちいち声に出して確認。


「ん~?」


同じようにごろ寝状態の佐々木も起き上がった。


「あ~、寝ちまったなあ・・。」



見ると、


八神が慌ててネクタイを締めて仕度をしていた。


「おい、なんだよ・・今日は休みなんだろ?」


「い、行かなくちゃ!」


心なしか顔色が悪い。


「どこに・・」


「か、勝沼に!」


「勝沼?」


「結婚式!!」


ガバっと佐々木に振り向いた。


「・・だれの・・」


佐々木はまだ寝ぼけているように頭をかいた。


「お、おれの!!」



八神はどんどん血の気が引いてきた。


「は・・」


その事態に


佐々木もようやく目が覚めた。


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