第175話 2週間前(3)

「え、今日やるんじゃないんですか?」


美咲は言った。


「予約がありますので、」


「なんだあ、」


美咲は思わずガッカリして、八神に睨まれた。



なに期待してんだ、コイツ・・。



そして八神はハッとして、


「い、痛いんですか?」


自分の心配をした。


「痛みはほとんどないと言っていいでしょうね。 あとになって少し痛いってこともありますけど、」


「い、石だけバクハツなんて・・内臓は大丈夫なんでしょうか??」


美咲に脅されたことをそのまま質問し、


「ハハ・・内臓までバクハツしたら大変でしょう、」


と失笑された。


美咲もまさかそんなことを聞くとは思っていなかったので、ぷっと吹き出した。



「まあ、原因はいろいろありますけどね。 コレステロールの採りすぎには注意して。 30過ぎるとね、若いときみたく体が栄養を処理できませんから。」


「ああ、やっぱり・・慎吾、食いしん坊だからね、」


美咲が言ったので、


「おまえに言われたくない・・」


また彼女を睨んだ。


「これでこの石がなくなっても、またできないって保障もないんですけど、」


医師の言葉に、


「えっ! またできるんですか? 石、」


顔色が変わった。


「体質がありますから。 あんまり脂っこい食事は胆嚢の負担を重くしますから。 アルコールも採り過ぎないように、」


と言われて、


「おじいちゃんみたいな食事をしなさいって、」


いちいち憎たらしいことを言う美咲をまた睨んだ。



「あ~、もう、今日その石をバクハツさせるところ見れると思ったのに、」


帰り道、美咲は心底残念そうに言った。


「・・花火じゃねえんだぞっ!」


「ま、よかったじゃん。 明後日はちょっとついていけないなァ・・ひとりで大丈夫?」


美咲は手帳を見ながら言った。


「おまえが来ても、意味がないってことが今日、わかったよ。」


「え、なにそれ~。 じゃあ、あたしこれから会社に行くね。 お昼もね、冷奴だけにしといたほうがいいよ。 じゃあね、」


美咲は言うだけ言って行ってしまった。




「ハッハッハッ!! 爆発するとこ見たかったって!」


会社に戻り、みんなに一部始終を話して大笑いされた。


「ぜったいに花火かイリュージョンかなんかだと思ってんですよ! あいつ!」


憤慨する八神にもまたみんな笑った。


「ほんっと美咲ちゃんておもろいよね。 いいコンビやな、」


南は笑った。


「笑い事じゃないっすよ・・んっとにも~。 ひとごとだと思って、」


「まあ、覚悟決めて、爆破させてこい!!」


志藤に肩を叩かれた。


「爆破って、」


ガラスのような八神の心は傷つきっぱなしだった。




そして・・・


「じゃあ、行ってきます・・」



治療の日、八神は午後になって重い気持ちで席を立った。


「あ、爆破させてくるんですか? 頑張ってくださいね!」


夏希が元気にデリカシーのない声をかけたので、ムッとした。


「・・おれは頑張れません・・」


「美咲さんもついてきてくれないんですかあ? かわいそ。 新婚なのに、」


「おまえから言われると、ほんっと、ムカつくから!!」


八神は夏希の頭をファイルでひっぱたいた。


「いった~い、もう・・」


夏希は頭を押さえた。



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