第153話 安心(2)

「怖くって寝れないから!」


美咲は勝手に布団にもぐりこんできた。


「って、なんでわざわざ狭い布団に入ってくんだよっ!」


「だって、もう二度と寝室に入らないでって・・言っちゃったし、」


バツが悪そうに言う彼女がおかしくてぷっと吹き出した。


「今日だけ!」


まるで子供だなあ。


たまに


こうやって


すっげえ


かわいいって思えるときもある。




八神は一緒に布団に入って美咲を抱きしめた。


「やっぱり・・一緒に寝たい・・」


美咲はくぐもるような声で言った。


「え~?」


「もうあたしの足、縛ってもいいから!」



何を言い出すんだ、コイツは。



八神はおかしさがこみ上げてくる。


「それ、違うプレイなんじゃないの?」


「そうじゃなくって! 手錠もしてもいいから!」


美咲は大本気だったので逆におかしさが増す。


「手錠・・」


大ウケしてしまった。


「わかったよ。 こっち狭いから。 向こうで寝よう、」


八神は笑ってそう言った。




二人は寝室に移動した。


「この前はいきなり顔面に来たからなあ。 鼻血出るかと思った、」


「なんでこの年になっても寝相悪いんだろ・・」


「子供並みだよな、」


「慎吾だってこんなカミナリなのにグウグウ寝れるじゃない。 ちょっとくらい我慢してよ、」


美咲は口を尖らせた。


「小学校の時さあ、みんなで遊園地に行って。 お化け屋敷入ろうって言ったときも。 おまえ、大変だったもんなァ、」


八神は思い出して笑った。


「も、ぜんっぜん覚えてない。 慎吾につかまって目えつぶって歩いてたから。」


キャーキャー騒ぐからさあ。 んで、しまいにゃ、転んじゃって。 おれまで一緒に転んじゃってさあ。 オバケの人に助けられたんだよな、」


「え? そうだっけ?」


「そうだよ。 ほんっと、それ考えるとよく一人暮らしなんかできたよなあ、」


「夜帰るのもちょっと怖くって。 誰もいないのわかってても、『ただいまァ!』って大きな声出したりして。 風の強い日なんかベランダでガタガタ音がするだけで、一晩中眠れなかったこともあったし、」


美咲は八神に抱きつくようにして言った。



「でも。 もう一人じゃないんだァって。 いつも帰ると慎吾がいるから・・」


「ん・・」


八神はそんな美咲の頬にそっとキスをした。



こうして


あっという間にまた仲直りをして。




「ねえ・・」


彼女の身体をまさぐりながら耳元で囁く。


「え・・?」


「・・やっぱ、避妊、したほうがいいの?」


「え? なに、いきなり・・」


「だってさあ、もうすぐ結婚すんだし。 美咲も子供欲しいって言ってたじゃん、」


「まあ、そりゃ・・そうだけど。 でも、結婚式まであと2ヶ月もあるし~。 いろいろ忙しいから。 やっぱ、もうちょっと・・」


と言われて、小さなため息をついて、


「なんでさあ。 キモチいいことと、繁殖行動って一緒なんだと思う?」


すごく


すごく真面目な顔をして言われたので


美咲は口に手を当てて思いっきり吹き出してしまった。



「も、やだァ!慎吾ってば・・」


彼の胸を叩いて、大笑いしてしまった。


「え、なんで? そう思わない?」


八神はまだ真面目だった。



まるで


子供のギモンのように。


こんなことすぐ口にするし。



「も~、慎吾ってほんっとカワイイ!!」


美咲は母性本能を思いっきりくすぐられて、八神の頭を自分の胸に抱きしめた。



なんだかんだ言っても


楽しい


新婚生活(?)


なのだった。




の、はずだった・・。

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