第132話 一世一代(2)

「な、なんだよっ!!」


八神は自分がなぜこんなに笑われているのかいまだにわからない。



「慎吾・・ケッキョン・・だって! もー、ほんっと勘弁してよ~、」


美咲は涙を流して笑っていた。



緊張のあまり


自分が噛んだことは記憶ゼロだった。



すると八神の父がツカツカと歩み寄り、いきなり八神の頭をペシっと叩いた。


「いってえなあ・・」


「おまえがなあ、そうやってバカばっかするから! 雅之にバカにされんだ!」


父も怒りながら笑うという


器用な状態になり。




するとぽかんとしていた美咲の父も、思わず顔がゆるんだ。


「ほんっとに・・おまえは・・」


八神の呆けている顔がおかしくてたまらない。


「え? おれ・・めちゃくちゃ勇気振り絞って言ったんだけど? なんでみんな笑ってんの・・?」


ひとりきょろきょろとしてうろたえるだけで。



「もう、お父さんも諦めなさい。 慎吾より将来性のある男はいるかもしれないけど。 この子以上に一緒にいるとホッとできる子はいない。 昔っから慎吾はそういう子だったから。」


美咲の母はふっと微笑んだ。


「おれより将来性のある男はいるかも、ってのが傷つく・・」


八神はあっという間に元の『ヘタレ』に戻っていた。



「お父さんはね。 きっかけなんてどうでもよかった。 美咲のことが心配で。 ケンカして思わず引っ込みがつかなくなって言っちゃっただけだろうし。 心のどこかで美咲にはもっといい男がいるんじゃないかって思ってたかもしれないけど。 美咲には慎吾しかいないよ、」


美咲の母の言葉は胸にしみた。



美咲の父はバツが悪そうにプイっと顔を背ける。


「ね、お父さん。 そうでしょう?」


同意を求められて、



「・・・・」


無言でほんのちょっとだけうなずいた気がした。



「ねえねえ、もう籍入れちゃいなさいよ。 いいかげん。 あんたがウダウダしてっからおじさんだって心配なんだよ。」


朋が八神の頭をペシっとまたひっぱたいた。


「も~~、いってえなあ・・パカパカ叩くなっつの、」


「来年の3月に勝沼に新しいホテルがオープンするんだけど! そこに丘から町が一望できるチャペルができるんだよ。 ガラス張りで。」


旅行社に勤める朋の情報は早かった。



「あ、知ってる! こじんまりとしてるけどステキなホテルなんですってねえ、」


美咲の母もその話に乗った。


「ちょっとさあ、予約の空き状況聞いてみよっか。 あたし、そういうのは強いから任せて! 広い庭もあってね、ガーデンパーティーなんかもできるんだよ。」


「へえ~、いいじゃない。」


八神の母も目を輝かせた。


「この前、会社からパンフもらって今あるから。 持って来る!!」


「ちょ、ちょっと!」


八神は勝手に進んで行く話にもう目が回りそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る