第133話 一世一代(3)
「ちょっといいじゃない。ここならお客さんも大喜びだよ~。 ほんっとキレイなチャペル・・」
「でしょ? 友達もここの宴会部に就職することになったらしくてさあ。 料理とかも一流シェフを招いててすっごく美味しいらしいよ。」
「ウチのワインも置いてもらえないのかしら、」
その後は
両家の家族、ほぼ全員が多賀谷家のリビングに集まってわいわいと盛り上がっていた。
八神は黙ってジーっと話を聞いていた。
そしてハッと我に返る。
待て!
おれは『今すぐ』結婚するなんて一言も言ってねえ!
「ちょ、ちょっと待ってよ・・」
と割って入るが、
「ね~、いいでしょう? ここ。 ほんとね、グズグズしてたら、またお父さんたちケンカして別れろって話になっちゃうよ。」
朋は立ち上がった八神を座らせた。
「そうそう。 気がかわらないうちにね。」
美咲の母も優しくもプレッシャーをかけるようにそう言った。
「なんか久々のイベントだね~。 わくわくする。」
いつの間にか近所に住む次姉の悠までやってきていた。
「もー!なんとか言ってくれよ、」
八神は泣きそうな顔で美咲に助けを求めた。
「・・止められないよ・・この勢いは・・」
「って、なんであきらめ口調?」
必死になる彼の顔を見て、またさっきのことを思い出してしまいぶっと吹き出した。
「なんだよっ!!」
八神は美咲の頭をペシっと叩いた。
「美咲はやっぱりウエディングドレスのが似合うだろうから。 ここがいいよ~、ね?」
長姉・涼はパンフレットを手に身を乗り出した。
疲れた・・
八神はその場から幽霊のように立ち去った。
「もー、ひとりで戻ってきて、」
自宅に戻って自分の部屋で寝転んでいた八神のところに美咲がやってきた。
「なんか周りで盛り上がってて。 疲れちゃったんだもん、」
不貞寝をした。
「しょうがないなあ・・」
美咲もベッドの端に座った。
「どうせ、もう蚊帳の外だし・・。おれなんかさ、」
「いじけちゃって。」
美咲はクスっと笑った。
「昔っから慎吾はお姉ちゃんたちのオモチャだったもんね、」
「ほんっと。 おれが女の子に対して夢が見れなくなったのは、姉ちゃんたちのせいだ。」
「強い女に弱いんだよね、」
美咲はアハハと笑った。
そうかも。
八神は美咲をチラっと見てそう思った。
「・・ねえ、」
「ん?」
「お父さんにプロポーズしただけで・・あたしにはしてくれないの?」
美咲はいたずらっぽく笑って八神を見下ろした。
「は・・?」
「あたしに。 プロポーズしてくれてないじゃん。」
そうだっけ?
と言い掛けて、
そんなことを言ったら殴られそうなのでやめた。
「プロポーズって・・」
八神は身体を起こした。
「ね~~。 されてみたい~。」
美咲はおねだりをするように八神の肩を手をやった。
「・・前に、言ったじゃん。」
「え? いつ? なんて?」
「美咲しかいないって・・」
「それは! 告白でしょ! プロポーズだよっ!」
美咲はちょっとイラついた。
う・・
そんなに改まって要求するなっつの。
八神は妙な汗が出てきた。
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