第129話 スイッチ(2)

「え? 美咲ちゃんのお父さんが?」



結局、南が相談に乗ることになり


二人でランチに行く。


「もう、むちゃくちゃ言われて。 美咲の父ちゃんってほんっと直情型で怒ると手がつけられないんですよ。 まあ、さっぱりはしてるんですけど。 内心おれのことそんな風に思ってたんだって・・思ったら悲しくなっちゃって、」


八神は怒られた子供のようにしょんぼりとしていた。



「でもさあ。 美咲ちゃんちと八神んちってめっちゃ仲ええんやろ?」


「もう・・お互いの両親が高校の同級生ですからね。 4人で仲良し、みたいな。」


「濃い~んやなあ、」


「もうあの4人はそのときのまんまなんですよ。 くっだらないことでケンカしてはいつの間にか仲直りして。 子供たちだってもうどっちの子供かわかんなくなるくらいお互いの家を行き来して。 どっちの家でゴハン食べても風呂入っても遠慮ないくらい。 今度だって、どうせくだらないケンカだし、気にすることもないと思ってたんだけど。 なんか・・おれが美咲に相応しくないようなこと言われて・・ショックってゆーか。 もう一人のオヤジみたいな気、してたから・・」


八神は頬杖をついて、パスタをつついた。



「そっかあ・・」


「今まではなんとも思わなかったけど・・あれ? ひょっとしておれたち別れなくちゃいけないの?って思ったら。すっげー怖くなっちゃって・・」


「怖い・・?」


「美咲がいなくなる、人生が・・考えられないっつーか、」



八神の気持ちが


どんどん変化していくのが


手に取るように


南は感じていた。




いよいよ


決断の時か?



なんだか南のほうが全身に力が漲ってきた。


言いようのない


エネルギーが心の底からわいてくる。



なんであたしがこんなに燃えてるねん!


南は自分に問いてみたが、もう止められない。


「ならお父さんにちゃんと言わないと・・アカンやないか・・」


ものすごくドスの利いた声で言った。


「は・・」


八神はそんな彼女を見てビビった。


「美咲さんと結婚させてください!って お嬢さんをおれに下さいって!」


南はテーブルを拳でバンっと叩いた。



「ちょ、ちょっと・・」


八神は周囲を気にした。



「だいたいなあ、親の反対もなく結婚できるほうが珍しいねんで! 普通、なんかしら障害があるやろ! ちょっとは苦労してヨメもらったらどやねん!!」


いつの間にか怒られて・・


「方向、変わってます・・」


力なく言ったが、彼女は聴く耳を持たず、


「ごちゃごちゃ言うな! お父さんだってねえ、美咲ちゃんのことそりゃかわいいと思うで。 あんなにきれいで明るくて。 非の打ち所のない娘に育てるのにどんだけ苦労したか! あんたはその美咲ちゃんをもらえるのが当然みたいな顔をして! ぜーたくやん! 美咲ちゃんがあんたの幼なじみで、あんたに惚れてなかったら間違いなく結婚なんかでけへんで!」


グサグサくる言葉をぽんぽんと言われた。



「き、傷つく・・」


胸に手をやって、打ちのめされた。


「まあ、確かに。 親にしてみたら八神に娘を託すのは不安だと思うよ、」


南はひとりウンウンとうなずいた。


「も~・・傷ついてるおれにさらにダメージを与えないで下さい!」


八神は泣きそうになった。


「とにかく! ここは男気出して! 八神慎吾、一世一代の本気、見せて来いって。」


「南さんの顔のが怖いですよ・・」


「本気と書いて『マジ』と読む、」



怖いほどの視線で凝視され・・。


思わずのけぞった。


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