第126話 それから(3)

説得、できっかなあ・・


美咲のお父さん、ほんっと熱血だし。


体もでっかくて、普段はおもしろくてすっごく優しいけど


怒るとめちゃくちゃ怖くて。


子供のころ、絶対に入るなって言われてたワインの貯蔵庫で美咲と遊んでて


ほんっと


怒られて、ひっぱたかれて。


二人で。


曲がったことや、約束を破ったりすることが大嫌いで。



約束・・・



八神は美咲と結婚すると


みんなの前で約束したことを思い出していた。




ドキドキしながら美咲のマンションまで行った。


「お父さん・・慎吾が来たよ・・」


美咲が言うと、


「慎吾?? 呼ぶなっつっただろっ!」



もう


怒ってるし・・



八神はすでに帰りたかった。


「こ、こんばんわ・・」


おそるおそる部屋に上がる。



「あ、ビールでいい?」



こんな状況なのに飲めっかよ!



と美咲を睨んだ。


美咲の父はギョロっとした目で八神を見た。


「おまえには恨みはねえけどな。 あんのやろ、美咲のこと侮辱しやがって!」


と、ドンとテーブルを叩いた。


「はあ・・」



「だいたいあいつは昔っから捻くれたトコあって! おれが由美と結婚したことをいまだに恨んでいるんだっ!!」



またその話か・・



八神と美咲はため息をついた。



八神の父と美咲の父は同い年で幼なじみで学校もずうっと一緒で。


同じラグビー部で。


そして、高校のラグビー部のマネージャーだった美咲の母・由美を奪い合ったという話は腐るほど聞いた。



結局


八神の父がその争いに敗れ、やっぱり高校の同級生だった八神の母と20歳のときに結婚してしまったのだ。



「いっくらなんでもさあ。 もう何十年前のことを持ち出すのはどうかと思うよ。」


美咲はため息をついた。


「今度という今度は! 隆吾には愛想がつきた!!」


美咲の父はかなり興奮していた。



「美咲のことは諦めてくれ! 美咲は他の男と結婚させる!!」


「お父さん、」


美咲は驚いた。


八神はジッと押し黙っていた。


「ちょっと、慎吾も何とか言って!」


痺れをきらした美咲は言った。



「え・・」


八神はちょっとなさけない顔をして美咲を見た。


「なんとかって・・」


正直、父親同志の些細なケンカなんかしょっちゅうだった。


でも、いつの間にか仲直りして、なんでもなかったかのようにまた一緒に酒を飲んだり。



でも、


今回はいつもと違う・・



八神はひしひしと感じ取っていた。


「ほら、結局なにも言えないんだよ。 慎吾は。 おまえのことを本気で考えていない、」


その言葉に八神は


「ほ、本気で考えて・・なくもないって言うか・・」


勢いづけて言うも、尻すぼみになり・・


「もー! しっかりしてよ!」


美咲は心底情けなくなった。


「美咲は昔っから近所でも、かわいくっていいお嬢さんですね!って言われてて! 頭も良くてスポーツも万能で! それなのに・・なんで慎吾なんだっ!」



美咲の父はもうワインのボトルを1本空けてしまって酔っているようだったが。


これ、おじさんの本音なのかな・・


やっぱ


おれのこと


不満に思ってるのかな・・



八神はそう思うと猛烈に悲しくなってきた。


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