第125話 それから(2)
「へ?ケンカ?」
思わず大きな声を出してしまい、八神は辺りを見回して隠れるようにして、
「なんだよ・・ケンカって、」
「いつものことだと思ったんだけど。 今回はかなり本気で怒っちゃって。」
八神の父と美咲の父が大ゲンカをしたと言う。
「原因はなんなんだよ・・」
「わっかんない。 すっごくくだらないことだと思うよ。お父さんに聞いても、怒っちゃってなんも言わないんだもん。 そこからあんたたちの話になったらしくて。」
「はあ??」
「今・・、なんて言った?」
美咲は自分のマンションにやってきた父・雅之から意外な言葉を聞かされた。
「だから。 慎吾との結婚はなかったことにしろ。」
父はブスっとして言った。
「な、なんなの? いきなり、」
美咲は顔をひきつらせて父の前に座る。
「あんなヤツの息子と結婚なんかするなっ!!」
父はまた怒りが蘇ってきてしまったようで、ふるふると震えながらそう言った。
「んでさあ。 慎吾は生活力もない安月給のサラリーマンだとか、美咲ならもっといい縁談があったとか。 雅之さんが言ったんだって。 それでお父さんも怒っちゃって、美咲は気が強くてかわいげがないし、子供のころから慎吾のこといいように振り回してるし、あんな女と結婚したら慎吾の一生がめちゃくちゃだとか言い返したらしくて。もうそっからは大変よ。」
母の言葉に八神は気が遠くなる。
いったい何をやってるんだ・・オヤジたちは・・
めまいがしてきた。
「絶対に慎吾におまえはやらないからな! だいたい、あいつがおまえと結婚するって言ってきてからもう2年も経ってんだぞ! いまだにそんな話も出てないんだろう!?」
父の怒りは収まらない。
「そう、だけど・・別にあたしも今仕事で忙しいし・・」
美咲は動揺しつつ、なんとか父を落ち着かせようと必死だった。
「おまえは東京営業所の早田と一緒になれ!」
唐突だった。
「は? 早田さんて・・あの東大出の?」
「まだ31なのに仕事はできるし、東京での販売拡大もあいつのおかげでできたようなもんだし。 慎吾よりずっとずっと将来性あるし! 明日、早田と一緒に食事をするからおまえも来い!」
あまりに強引な話に、
「ちょっと! いきなりなんなのよ。 なんであたしがあの真面目を絵に描いたような早田さんと結婚しなくちゃならないのよ!!」
「慎吾なんか絶対にダメだっ!!」
父は学生時代ラグビーの選手で。
熱血で、一度沸騰したらおさまらない直情型で。
こうなるともう
手がつけられなかった。
「はああああ。」
母からの電話を切ったあと、八神はデスクに突っ伏した。
そこに携帯が鳴る。
美咲だった・・・
「今、オフクロから電話あったよ・・くっだらないことでほんとにも~。」
八神が疲れたように言うと、
「そんな暢気な! お父さん本気みたいなの! あたし、チョー堅物の東京営業所の所長と結婚させられちゃう!!」
美咲はコンビニに行くと言って外に出て電話をした。
「へ?」
「東大出のすっごい腕利きの営業マンで・・お父さんもすっごく信頼してる人なんだけど。 その人と結婚しろとか言うんだよっ!」
「な・・」
八神は言葉を失った。
「早く帰ってきて! お父さんを説得してよ! かなり本気なんだから!」
って
どうしよ・・・
八神はもうかなり動揺していた。
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