第124話 それから(1)

それから


忙しさにふりまわされて。


1年の3分の1くらいは


真尋さんについて海外へ行き。



美咲も


仕事でフランスやカリフォルニアにも出張したり。


けっこう


楽しそうにやっていた。




気がついたら


時は


静かに


ゆったりと流れていて。


ばあちゃんに


『美咲と結婚する。』


って宣言してから


2年も経ってしまっていたというオドロキ。



お互いの家族も


おれたちが結婚の約束をしたことさえ忘れているのでは。


と思えるほどだった。



おれたちは相変わらずだった。


小さなケンカはしょっちゅうだし。


口も利かないで1週間が経ってしまうなんてこともしばしばだった。


それでも


またどちらともなく


寄り添うように。


仲直りして。


その繰り返し。



幸いなことに


お互いの気持ちは


逸れることは


全くと言ってなかった。




「ね~、八神さん。 コレってなんで計算合わないと思います~?」


夏希は書類を八神に差し出した。


「はあ?」


「さっきっから計算してるんですけど~。 毎回答えが違うんです・・」


「答えって・・テストじゃねえんだからさ。 おまえ、足し算もまともにできないの?」


「指の関節が硬いんですかね。 電卓のキーがうまく押せないっていうか、」



おれよりアホな(?)後輩も


やってきて。


夢中で仕事をして。




たぶん


結婚するってことさえも


忘れてたのかもしれない。



ほんと


このまんまでも


十分、おれ幸せなんだけどなァ~。


暢気すぎる八神に


嵐・・いや、天変地異のような事件が舞い降りた。




美咲から電話があったのは昼休みだった。


「は?」


「だから! なんか知らないけど・・お父さんが今日、来るって言うの。」


「おじさんが? なんで?」


「わかんないけど! 一緒にゴハン食べに行こうってことになって、じゃあ、慎吾もって言ったら・・慎吾は呼ぶなって言うんだよ・・」



美咲はものすごく勘のいい女なので。


父親が自分を呼ぶな、と言ったことに何かを感じているようだった。



「なんか積もる話でもあるんじゃないの?」


暢気な八神はそう言った。


「そうかなァ・・なんかヤな予感するんだよね。 なんかすっごく機嫌悪かったし。」


美咲は不安そうな声を出した。




特に気にもしていなかったが。


今度は夜になり



「八神、お母さんから電話。」


南が取り継いだ。


「おふくろ?」


意外そうに言って電話に出た。



「あ、慎吾?」


「なんだよ、会社にまで電話してきて・・」


ちょっとうざったそうに言うと、


「携帯に電話してもでないんだもん、」


「急用?」


「・・雅之さん、そっち行った?」


美咲の父のことだった。



「え? おじさん? 昼休み、美咲から電話あってこっち来てるって話はきいたけど、」


「まだ会ってない?」


「うん。なんで?」


「なんかねえ・・」


母はため息混じりに話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る