第120話 泣き顔(2)

八神はふっと笑ってしまった。


彼女の涙を手で拭ってやって、


「おれは、美咲のことマジに心配してたのに。」


ポツリと言った。


「え・・?」


「もし、妊娠しててもおまえは意地を張っておれに言わないんじゃないかって・・。 おれも意固地になっちゃって。もっとかわいく縋ってきて欲しいって思ってた。こうやって、」


「慎吾・・」



「覚悟がないわけじゃないよ。おれ、美咲が好きだから。愛してるから、」



その言葉に美咲はもっともっと


涙が溢れてきてしまった。




「ハア? なにあの二人結局つきあってんの?」


真尋は志藤からその話を聞かされ驚いた。


「まあ、いろいろあってな。 そういうことになってるらしい、」


「そうだったんですか。なんか今までとおんなじ感じでよくわかんなかった、」


絵梨沙も驚いていた。


「なんだよ! 八神のヤロ・・言えよって!」


真尋は怒ったが、


「いちいち言わねえだろ。 特におまえには、」


志藤は真尋の頭を軽くはたいた。




「慎吾、ごめん・・あたし、」


美咲はしゃくりあげながら、八神にすがりついたまま言った。


「妊娠なんか・・してないよ・・もう、生理、来たし・・」


「は・・」


彼女の告白に一気に気が抜けた・・


「慎吾にもっともっと心配して欲しかったの・・あたしのこと、真剣に考えてほしくって、」



なんかもう


今まで死ぬほど悩んできたのはなんだったんだ??


八神は途方に暮れた。




八神は美咲を抱きとめながら、まだ少しボーっとする頭の中を一生懸命整理した。


「は・・そっか・・」


気の抜けた声を出す。


「・・ホッとした?」


美咲は涙の顔で八神の頬に手を当てた。



「いや、そういうんじゃなくって。 は・・なんだ、」


八神は力が抜けてバタっとベッドにまた倒れこんでしまった。



「慎吾!」


美咲は驚く。



「おれ・・マジに心配してたんだからな。 夜も眠れないくらい心配で。美咲なら、ひょっとしたら、一人で子供産んで育てるとかしちゃうかも!って思ったら・・おれはいったいなんなんだって思ったし・・」


弱々しい声で言った。


「なんで、黙ってたんだよ、」


美咲をジロっと睨んだ。


「慎吾の・・ホントの気持ちが知りたかったの。 誠意を見せてほしかったの! あの時、ばあちゃんの望みに流されて仕方なく言っちゃったんじゃないかって思ってしまって。 慎吾は、ほんとはあたしのこと好きなんかじゃないんじゃないか、とか、」



一生懸命言い訳する


美咲がかわいい



ふっとほだされたが。


なんだかイジワルをしたくなり、



「おれ・・ぼんやりしちゃって。 それで、木から落っこっちゃって、」


わざといじけて言った。


「え~~、も~~、」


美咲はもっともっと泣いてしまった。


「ごめん、ごめん・・ウソだよ、」


八神は笑う。



「バカ・・」


美咲は彼の胸を軽く叩いて、また泣いてしまった。

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