第121話 泣き顔(3)
八神は真顔になって、
「美咲、」
彼女の手を握る。
「子供が欲しくないとか結婚したくないとかじゃなくって。 おれのことわかってんだろ? いきなりそんなんなったら、絶対にビビるってこと。 頼むからつまんないことで怒らないでくれよ、」
優しくもう片方の手で彼女を抱き寄せる。
美咲は泣きながら頷いた。
そしてまた勢いよく八神に抱きついた。
「わ・・」
よろけてベッドの手すりにコブができている後頭部を思いっきりぶつけてしまった。
「いっ・・」
「あ、ごめん・・大丈夫?」
美咲は頭を撫でてやる。
「いたいっつーの・・も~~、」
八神は痛がりながらも、美咲にそっと顔を近づけて軽いキスをした。
「おれのこと・・そんなに心配してくれて。 ゴメン、」
とニッコリ笑った。
「やっぱ頭打っておかしくなってるよ・・」
美咲は泣き笑いをしながら言った。
「は?」
「いつもの慎吾なら・・そんな優しいこと言わない。」
美咲はそう言ってまた抱きついて彼の頬にキスをした。
とりあえず、少し休んで異常がなかったので、八神はそのままタクシーで家に帰れることになった。
「そっかあ、うまくいったんやあ、」
南は志藤から話を聞いて、してやったりの笑顔を見せる。
「おまえ、オーバーに言ったやろ。 美咲ちゃん、八神が生きてるの見て腰抜かしてたぞ、」
「ああ、意識不明って言うただけやん。 ウソちゃうもん、」
「んで、また。 真尋が竜生から『慎吾が死んじゃった!』とか言われて、やって来たもんやから余計にややこしくなってしまって、」
「ハハハ・・竜生もびっくりして死んじゃったと思ったんやろな。 ま、でもたいしたことなくてよかった、」
南はホッとした。
美咲は仕事を早く終わらせて慌てて八神の部屋に行った。
「慎吾、大丈夫なの?」
「へ?」
八神は普通に起きて洗濯をしていた。
「おきてていいの?」
「コブ以外はなんともないし。 気分が悪くなったらすぐに病院に来てくれって言われたけど、別に普通にメシ食ったし。」
と洗濯物を干す。
「あたしがやるよ・・」
それに手を出すと、
「このくらいできるよ。 あ、晩メシは?」
「まだだけど・・」
「ペスカトーレ作る。 さっき買い物も行ったから、」
八神はニッコリ笑った。
子供のころからケンカなんか数え切れないほどしてきた。
それでもいつの間にかどっちが悪いとか、どっちが謝るとかどうでもよくなって、普通にお互いの家を行ったり来たりして。
だいたいどちらかが寂しくなって
歩み寄る。
それも変わっていなかった。
「あ! 天国から生還した男!」
南はその2日後、出社した八神に言った。
「勝手に殺さないでください・・」
「ねえ、今日何時ごろ行ける? あたしは午前中で仕事終わらせるけど、」
と言われて、この日がもう土曜日で志藤の家に行く日だということを思い出した。
「そっか、今日だっけ。 ええっと、ちょっと休んじゃったんで、仕事しないとだし。 夕方ごろ行きます。」
「美咲ちゃんは?」
「あとで電話をしておきます。 志藤さんのお宅は初めてなので一緒に行きますから。」
「も~、あたしの機転で仲直りできたやんかあ、」
とニヤつく。
「めっちゃくちゃ泣かれましたよ。ほんっとオーバーなんだから、」
「でもラブラブに戻ったんやろ?」
「ラブラブかどうかわかんないですけど。」
ちょっと恥ずかしそうに口ごもる。
「まあ、ええやん。 めでたし、めでたし。 あ~あ、今日も八神の料理食べたかったなあ・・」
「デザートくらいならその場で作ります。」
「やった! 材料買うものあったら言って。 あたし帰りに買っておくから!」
張り切る南に八神も嬉しそうに頷いた。
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