第119話 泣き顔(1)

真尋は慌てて病院にかけつけた。


そこの玄関で美咲にバッタリ会ってしまった。




「み、美咲ちゃん!」


「真尋さん・・慎吾は?」


彼女も非常に慌てていた。


「わかんねえ! 竜生が・・しんごがしんじゃった~って、」


と言われて、



「な・・」


美咲の心臓は止まりそうだった。


「い、いったい・・何が、」


と言ったとたん、美咲は取り乱して泣き出してしまった。


「ちょ、ちょっと待って! 竜生の言ってることが支離滅裂で・・わっかんねーんだけど!」


真尋は倒れそうな美咲を支えた。



「ど・・どうしよう! 慎吾が・・慎吾が死んじゃった!!」



泣き喚く彼女を


「だから! わかんないから! 落ち着いて、」


一生懸命、落ち着かせようとした。






「ったく、しょうがねえなあ、」


志藤は笑う。



「でも、木登りは子供のころは得意だったんですよ・・なんかいけそうな感じしちゃって。 でも、大人になって体が重くなってたのは想定外でした。いきなりズルって、」


八神は言った。



「竜生がわがままを言ったから。 言ってくれればなにか棒を持ってきて取ったのに、」


絵梨沙の言葉は目からウロコで。


「は・・確かに・・登る必要ゼロでしたね・・」


八神は力なく笑った。



そこに


バーンと勢いよくドアが開いた。


「し、慎吾!!」


いきなり美咲が飛び込んできたので、八神をはじめみんな驚く。



「み、美咲??」


「八神! 生きてっか!?」


けたたましくその後から真尋が入ってきた。


美咲は目をぱちくりさせている八神を見て、全身の力が抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。


「だ、大丈夫か?」


志藤が手を貸す。


「こ・・腰・・抜けた・・いきてる・・」



美咲は緊張の糸が切れたように、わっと泣き出した。


「美咲、」


八神は驚いて少し身体を起こした。



志藤はそっと絵梨沙を促して外に出るように目で合図した。


絵梨沙はそれを察してうなずいて外に出る。


「八神! おれがわかるかっ!? 記憶喪失とかなってねーか!?」


なおも食い下がる真尋を無理やり引っ張る。


「なんだよっ!」


「いいから、」


志藤は彼を外に連れ出した。



「泣くなよ・・おれ、別に死んでないし、」


八神は起き上がると少しフラフラした。


美咲はまだ泣いている。


「ほんっと・・もう・・意識不明だって南さんから電話あって。 どうしちゃったのかって・・」


「確かに意識はなかったけど、ただ気を失ってただけなのに、」


暢気に言うと、美咲は八神に抱きついた。


「も~~、心臓が止まりそうだった! 慎吾が死んじゃったら、どうしようかと思って!」


「美咲、」



鼓動が


彼に伝わりそうなほど、美咲はぎゅっと抱きついた。


そのぬくもりが


すごくうれしくて。


「ごめん・・ごめん、」


八神も彼女をぎゅっと抱きしめた。


「慎吾が・・死んじゃったら・・あたしも生きていけないって思ってた、」


美咲は八神を泣きながら見つめた。



泣き顔は


子供のころとおんなじだ・・

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