第111話 責任(2)

「指輪とかあげた?」


南は八神に言った。


「へ? ゆびわ?」


「ゆびわ?って・・あんた女心がわかってへんなあ。 まあ、いつ結婚するか知らんけど。 とりあえず気持ちを示しなさいよ。消去法みたいなこと言うて。 失礼やん、」


八神の暢気さに南のほうがイラついてしまった。


「美咲にも言われましたよ。 消去法みたいじゃないって。 でも、結婚ってそういうもんじゃないんですか?」


逆に質問された。


「は?」


「いろんなこと考えて、最終的に結婚するのはこいつしかいないって。 好きだからするのとはちょっと違って、結婚するのは他に考えられないからその人とするもんでしょう?」


「う・・」


アホのクセに


妙に納得してしまうようなことを・・


南は悔しいが言葉に詰まってしまった。



「ねえ?」


と八神はまた斯波に同意を求めたので、


「だから、おれにふるな・・」


迷惑そうに言った。


「別にいつ結婚するとか約束したわけじゃないのに。 しかも、おれ金ないし・・」


「あんた給料を何につぎ込んでるねん。」


南はため息混じりに言った。


「え、なんだろ・・」


八神は箸を止めた。


「見たとこ趣味もなさそうやし、」



確かにそうだ


おれ、なにに金を遣ってるんだろ。



首をひねる八神に斯波はコーヒーを飲みながら笑って、


「こづかい帳でもつけたら?」


と言った。


「小学生じゃないんですから。 まあ、たぶん・・ゲームソフト買ったり、漫画買ったりで消えちゃうんでしょうね、」


「って、やっぱ小学生がお年玉もらったあとの使い道と一緒やんか!情けない、」


南はバシっとテーブルを叩いた。


「じゃあ、一緒に住めば? 家賃、浮くし。」


「え? だれと?」


大真面目に聞き返す八神に


「美咲ちゃんとに決まってるやん・・どうせ一緒に住んでも、親、なんも言わへんのやろ?」


「え~? ヤですよ・・そんなの。」


思わぬ拒絶に、


「なんで?」


さすがの斯波も身を乗り出してしまった。


「だってまず! 二人分住める余裕のある部屋じゃないし。 引っ越せばそれなりに金かかるし。 美咲はすぐに電気をつけっぱなしにしたり、シャワーを湯水のように使ったりするし。 メシもすごく食うし、酒もめちゃめちゃ飲むし。 ぜんっぜんいいことない。」


などと言い出したので二人は呆れた。


「そんなんじゃ、絶対に結婚でけへんわ・・あんたら。」


「は?」


「あんたが甲斐性をつけて、金稼いでもっとでっかい部屋借りて。 二人で暮らせばええやん。 美咲ちゃんだって仕事してるんやし、そんなんで文句言ってたらいっしょに生活なんかでけへんて。」


南の言葉に八神はうーんと考えて、


「とりあえず。 今はいいです。 貯金もしたいし、美咲もすぐに結婚しなくてもいいって言ってるし。」


「またそんな、」


「今、すっごく落ち着いてて、自由で、安心できるんですよ。 最後に帰れる場所があるってほんといいなァって。 お互いに。 別にラブラブ状態ってわけでもないし、」


南はため息をついて


「そんなんでようHできるなあ、」


と言い出したので、斯波はびっくりして彼女の口を押さえた。


「昼間っから!」


慌てて周囲を見回した。



しかし八神は平然と


「それとこれとは別ですよ。 ほんっと昨日なんかやってる最中に『合コンどうだった?』とか普通に聞かれちゃって。 冷めるからやめろって言ったんですけど。」


いつものように


コドモっぽく、そんなことまで赤裸々に普通に話す八神に


斯波のほうが赤面してしまった。


「ああ、あるある。 『お風呂の電気つけっぱなし!』とか、」


南もおかしそうに笑った。



斯波はぎょっとして苦々しい顔で南を見た。



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