第112話 責任(3)

「お先、」


斯波は耐え切れずその場を去りたくてさっさと片付けて行ってしまった。



ったく


昼間っから!


下ネタで盛り上がるなんて!


よく酒も飲まないであんな話。



と彼らに


ちょっと腹を立てた後


ふと考える。



でも


斯波は少し冷静になって考えた。



八神はある意味正しいな・・


あいつはおれよりもちゃんと結婚って現実を考えている。


好きだ、愛してる


だけで結婚するのは、間違いだ。


一緒に生きていけない理由が見つからない時


結婚するんだよな。


アカの他人が


家族になるなんて


よっぽどの覚悟が必要だ。



あいつは


彼女のことわかりすぎてて



いや


お互いにわかりすぎてるから。


一緒に暮らしたりなんかしないんだろうな。




萌香のことを思う。



彼女と暮らし始めて


1年が経った。



彼女と暮らすようになって


すっごく


自分が落ち着いているのがわかる。


結婚とか


考えたりしなかったわけじゃないけど。


でも


やっぱり


勇気がなくて。


おれにとって


『結婚』は


幸福なものじゃない。



『あなたとなんか結婚したのが間違いだった! ほんっと不幸になっただけだった!』



オフクロの


あの言葉が


今でも頭に焼き付いている。




おれは


萌香を一生ずうっと


大事にしていきたい


結婚したら


そこがもう終わりなんじゃないかって。


ふと


思ったりする。




八神はこの居心地のよさにどっぷりとつかっていた。


美咲も適当に遊びながらも


落ち着いた生活を送っている。



そんな二人に


ちょっとした嵐が吹き荒れた。



「来週の日曜さあ、志藤さんの家にみんなで集まって飲もうって誘われたんだけど、」


八神はテレビを見ながら美咲に言う。


「志藤さんのおうち?」


「うん。 浅草の浅草寺の近くなんだあ。 おれは1回だけ行ったことあるんだけど。 志藤さんち子どもが4人もいてさあ。 来月5人目が生まれるんだよ。」


「え~? ほんとに? あんなにかっこいいのに?」


「カッコイイは関係ないじゃん。 ほんとナルシストでさあ。 女の子にモテることが生きがいみたいな人なのに。 5人の子供パパってギャップがね。 おっかしくて。」


八神は笑う。


「だから美咲も呼んでいいよって言うから。」


「わ~、楽しみ~。 あたし浅草ってまだ行った事ないんだあ。」


「ちょっと早く行って散策しよっか、」


「うん!」


相変わらず楽しいだけの


二人であった。



ところが



「は? 具合悪い?」


朝から美咲からの電話を受けた。


「も・・なんっかムカムカしちゃって。 朝から吐いちゃったよ・・」


「めずらし・・なんかへんなもん食った? ってゆうべはおれと一緒のもん食ったしな・・」


「とりあえず、病院行く。 今日、会社休むかも、」


「ひとりで行けるか?」


「大丈夫・・じゃあね・・」



ほんと


食意地が張ってて、腹壊すこともないのに。


珍しいな・・



ちょっと気になったが、時間がないので慌てて出かける仕度を始めた。




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