第96話 迷い(1)

「うお~~! すっげー! どこにいたの?」


美咲の甥っ子二人はそれを見て大喜びだった。



「そこの前の林にいたんだよ。 すげえだろ、」


ちょっと得意そうに言った。



美咲の母はそんな八神を見てぷっと吹き出してしまった。


「え?」


「ほんっと、慎吾は全然変わらないね。 ウチのお兄ちゃんたちと夏休みは毎日暗くなるまでカブトムシやクワガタを捕りに行って。 美咲は飽きちゃってすぐ帰ってくるんだけど。」


「そうだっけ?」


男兄弟のいなかった八神にとって美咲の兄たちは、まさしく本当の兄弟のように毎日遊んだりしていた。



さっきは美咲との結婚を仄めかされて、美咲の母がちょっとしつこかったので少しムッとしてしまったが。



やっぱり


そんなこと何でもなかったかのように。


また、こうして笑って話をしたり。


本当に


家族みたいに。




なんだかんだで、美咲の家でカブトムシで盛り上がり、


家に戻ると、末姉で独身の朋が仕事から帰ってきて、食事をしていた。


「ああ、慎吾。 来てたの?」


「今日から3日間、休みもらって。」


「おばあちゃん、ほんっと弱っちゃったもんな。」


長姉・涼の夫である雄二は新聞を読みながら、そう言った。


「最期は家で、とか言っちゃって。 ばあちゃん自分で病院出てきちゃったのよ。」


涼が言う。



そんなこと


言われると。


ほんと、もうお別れみたいじゃん・・



八神はしょぼんとした。


「昨日だっておれがおばあちゃんの部屋に行ったら、『慎吾?』とか言って。 寝ぼけておれと慎吾を間違えたみたい、」


義兄にそんなことも言われ。


「ほんっと、あたしたちのことよりばあちゃんは何を差し置いても慎吾ばっかりだったもんね。  お母さんよりも一緒にいた時間長かったんじゃないかってくらいだったし。」


「こっそり慎吾だけにお小遣いあげたりさあ、」


姉たちの言葉に


いろんな思い出が蘇ってきて、うるうるしてしまった。



ばあちゃん・・



少し鼻をすすると、


「あ、泣いてる。」


すかさずからかわれたので、


「泣いてねえよっ!」


と、二階の自分の部屋に戻ってしまった。



夏になると


自分の部屋のベッドに横になったとき


三日月のときだけ窓からよく見えた。



今日も


同じようによく見える。



やっぱり


ここも時間が止まってる



まだここをリフォームする前。


畳の部屋だった時。


布団をふたつ並べて敷いて。




『もう早くねなさい。』


『え、もうちょっとあそびたい・・』


『夏休みだからって夜更かししちゃダメだよ。』



美咲とここに寝て。


ばあちゃんがいつも最後に電気を消してくれた。



そんなしてたおれらが


まさか


すでにこんな『関係』になっちゃったなんて知ったら


それはそれで驚くんだろうなあ。



おれはじいちゃんの気持ちは少しわかる。


だって


ずうっと一緒に暮らしてきた妹みたいなばあちゃんと結婚しろだなんて。


むちゃくちゃだ。


昔の人は親のいいつけが絶対だったから承知したのかもしれないけど。


おれはじいちゃんの迷いがわかる。


『同じように家族でいい』


ってばあちゃんは思ってたみたいだけど


兄妹と夫婦は


違うよ・・。


絶対に違うのに。


なんでみんなわかってくれないんだ・・


おれの気持ち。




八神は枕をぎゅうっと抱きしめてしまった。

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