第70話 あやふや(4)
そして土曜日
すっかり元気になった美咲は朝8時に八神のところに現れた。
「はえ~よ。 まだ8時だっつの。 まだ掃除もしてねえ。」
洗濯物を干しながら八神は迷惑そうに言った。
「掃除機くらいあたしがかけるから!」
美咲は久しぶりに八神と二人で出かけるのが嬉しくてたまらずに、張り切って掃除を手伝った。
「あぶなっかしいなあ。 壊すなよ、」
「掃除機くらいかけられるって! ね、朝ゴハンは?」
「え、食ってねえの?」
「そんなの慎吾のことあてにしてるもん、食べてるわけないじゃん。」
当然のように言う彼女に
「ほんっと・・心から図々しいな。」
そう憎まれ口をたたきながら二人分の朝食を用意しはじめた。
「う~~ん、どっちにしよっかな・・」
二人ででかけて映画を見た後、美咲はショッピングモールにひっかかって一生懸命に洋服を選んでいる。
「なげえっての・・何十分悩んでんだよ、腹減った。おれ、」
八神は美咲に文句を言った。
「なんか甲乙つけがたい~。」
八神はパパっとその二つのカットソーのシャツを見て、
「これ、」
とひとつを手にとって美咲に差し出した。
「え?」
「こっち。 絶対、こっちだよ。 美咲は。 おまえ寒色系なんか似合わない、」
ぶっきらぼうにそう言った。
「え、ブルーって、ダメ?」
「ぜんっぜん自分がわかってねえな、」
「にくったらしい言い方。 ま、いいか。 あたしも実はこっちがいいかな~って思ってたんだ。 会計してくるね。」
と笑って行ってしまった。
「そう思ってたんなら、さっさと決めろっつーの、」
ようやく遅い昼食を採ろうということになり、
「なに食べようか、」
美咲は言った。
なんか
カレー食いたいなあ・・
八神はそんな風に思っていた時
「ね! なんかカレー食べたくない?」
美咲が先に言い出した。
「え・・」
ちょっとびっくりした。
「インドカレー! ほら、ここにもあるから。」
と八神の手を引っ張った。
「インド料理久しぶり~。 おいしいね、」
美咲は嬉しそうにカレーを口にした。
「インドカレーはウチで作るより外で食ったほうがうまいな。」
「ちょっと、慎吾・・こぼしてるよ。 恥ずかしいなあ。 いい年して。」
美咲は彼がこぼしたところを紙ナプキンで拭ってやった。
「なんか食いづらいんだよ、」
あ~~
楽だ。
八神はカレーを食べながら
そう思った。
食いこぼしをしようが
キタナイ食べ方をしようが
美咲になら
別にどう思われてもいいって
心から思う。
それってなんなんだろ。
カッコつけようとか、ぜんっぜん思わないし。
こうして向き合ってても
1ミリも緊張なんかしないし。
逆に
女として見てないってことなのかもしれないけど。
ほんと
おれが今一番食べたいものだとか
そんなことも
不思議に彼女にはわかってしまう。
「ねえねえ、もちょっと買い物していい?」
食事を終えた後、美咲は甘えるように八神の腕を組むようにして言った。
「なげえからなあ・・」
「バッグも欲しいんだもん。 ね~、いいでしょ?」
「ま、おれが金出すわけじゃないから、」
こうやって
腕を組むことも
全く意識せずに
できたり。
って
腕組んでるって自覚するってことは
前よりは意識してるのかな?
八神はウインドウのガラスに映る自分たちの姿を見た。
どっからみても
フツーのカップルじゃん。
おれら。
いいのか?
おい・・
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