第68話 あやふや(2)

「味しないけど、おいしい気がする、」


八神の作ったスープを口にして美咲はニッコリ笑った。



「家から野菜たくさん送ってきたから。 美咲んとこにも持ってけって母ちゃんの手紙があったけど、おまえにやっても絶対に冷蔵庫で腐らせそうだもんな。」


「あ~、そうかもね。 ほんっと自炊って大変・・」


「なんもしてない台所って感じだもん。」




美咲はスプーンをカチャっと置いて、


「ねえ・・彼女、どーなったの?」


神妙にそう言った。



そう言えば


麻由子のことは美咲には何一つ報告していなかった。



「コンクールで、2位になったんだ。」



「え、ほんと?」



「うん。 すっごくいい演奏ができたと思うよ。 ほんとに頑張って。」



「そう、なんだ。」


ちょっと複雑そうにうつむく。




「マユちゃん、またパリに留学することになると思う。」


「え、」


美咲は顔を上げた。


「まだ細かいことは決まってないけど。 彼女は世界に出る人だって。 志藤さんもそう言って。 オケに戻ってくるとかそういう次元じゃないって・・」


少し寂しそうに視線を逸らした。


「だから。 うん、別れることにした。」


八神はそう言って美咲に笑いかけた。


「あ、あたしの・・せいかな。」


美咲はいきなり動揺し始めた。


「美咲のせいじゃないって。 最初っから。 おれたちはそういうつながりじゃあなかったんだと思う。 おこがましいけど、同じ演奏家として、すっごく彼女の気持ちもわかったし、応援もしたかったし。 彼女と再会してから、なんか見えなくなっちゃって、おれも。」


苦笑いをして点けていたテレビに目をやった。



喜べばいいのに。


慎吾


ホントに別れちゃった



美咲の胸の内はものすごく複雑だった。


でも


なんだろ。


すっごく心が


苦しくて


切ない。



慎吾の気持ちとシンクロしちゃってるんだろうか。



「ご、ごめんね。」


何を言っていいのかわからず、美咲は八神にそう言った。


「え?なんで美咲が謝るの? カンケーねえし。」



そう言われると


ちょっと腹立つんですけど



「あ!そうだ。 おまえ、マユちゃんに、おれたちのこと言っただろ!」


八神はいきなり思い出して言った。


「は?」



「普通の幼なじみの関係じゃないようなこと!」


「あ、ああ。 そういえば・・」



あの時はもう


興奮していて自分でも何を口走ったのかあまり覚えていない。



「ふたまたかけたとか言われてさあ! ほんっと、おれはそんな気持ちゼロだったのに!」


いきなりキレる八神に


「な、なによ! じゃあ、ふたまたじゃないって威張って言えるの!?」


逆に腹が立ってしまった。


「なんでそこでおまえがキレるわけ?」


いつものように口げんかになってしまった。


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