第34話 転換(3)

自分の部屋に戻っても、八神はボーっとしていた。


かわいかったなァ。


つくづく麻由子のことを思い出してしまった。



『また二人で会ってもらえますか?』



彼女の言葉が頭の中で何度も何度もリプレイされる。


そして


気がつくと顔がにやけていた。



そこに


携帯がけたたましく鳴る。


「も、もしもし・・」


「あ、慎吾?」


美咲の元気な声が聞こえた。


「美咲?」


ちょっと、ガッカリして言った。


「ねえ、来週の社員旅行のことなんだけどさあ。 あと、どこを案内したらいいかな、」


「どこでもいいよ。別に。 みんな飲めればいいって思ってるだろーし、」



正直


今、頭の中は麻由子のことでいっぱいだった。



「どこでもいいって言っても。 ね、今からそっち行っていい?」


と言われて、少しぎょっとして


「え! って・・もう10時過ぎてるし! い、今から来なくてもいいよ!」


必死に拒否してしまった。



またここで美咲に来られたら


おれ


また流される!!



自分の弱さが嫌で嫌でどうしようもなかった。




麻由子は緊張しながら事業部へやって来た。


「今、志藤さん会議終わってくるところだから。」


八神は彼女を応接室に案内しようとした。


「はい、」


「あれ・・」


彼女を見て玉田が少し驚いた。


「神谷さん、」


麻由子もハッとする。


「・・こ、こんにちわ。 ごぶさたしております。」


「元気? 今、日本に戻ってるの?」



にこやかに質問をする彼に、


「ちょっと、用があって、」


八神が彼女の代わりにそう言ったので、玉田は一瞬怪訝な顔をした。


「じゃ、こっちで。」


麻由子を庇うように応接室に通した。



志藤は約束の時間を15分ほど過ぎて現れた。


「あ~、ごめんごめん。 専務との雑談が長引いちゃって、」


と入ってくる。



麻由子は慌てて立ち上がった。



そして、


「お、お久しぶりです。」


緊張して頭を下げた。



しかし


志藤はいつもの笑顔で、


「久しぶりやな。 なんか大人っぽくなったなァ。 そりゃそっかもう・・23くらい?」


麻由子に軽くそう言った。


「はい・・」



志藤は彼女の前に腰掛けるが、麻由子は立ったままで、


「志藤さん、あたし・・」


ドキドキしながら彼に言おうとすると、


「なんで八神が関係あんの?」


志藤は全然関係ないことをそこにいた八神に言った。


「は?」


「や、彼女と全然接点なさそうやったのにって。」


タバコに火をつけた。


「この前、彼女の大学に仕事で行って、」


「・・ああ、秋の演奏会の件か。」


「それで・・」


八神が話を続けようとすると、麻由子は意を決して、


「あたし! ・・もう一度、北都フィルに戻りたいんです!」


と志藤に言った。


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