第21話 揺れて(3)
まだ6月なのにすごい雷雨だった。
カミナリがどんどん大きな音になる。
「ねえ、」
八神は昨日と同じようにキッチンで毛布に包まって寝ていた。
揺り動かされて目を開ける。
「なんだよ・・」
目をこすりながら起き上がった。
「すんごい、カミナリ、」
美咲が不安そうな顔でそこにいた。
「そりゃ、カミナリなんだからさ、」
また寝ようとすると、
「さっきすんごい音がしたんだよ! も~~! ちょっと、よく平気で、」
と背中を乱暴に揺さぶった。
「あ~も~! 大丈夫だって落ちたりしないよ、」
「いっしょに、寝て。」
美咲は八神の腕をぎゅっと掴んだ。
「はあ??」
「ほんっと! 怖いから!!」
彼女は必死だった。
「じゃあ、ここで寝るよ、」
八神は仕方なくベッドの横部分の床に寝ようとした。
「ダメ! 一緒に、」
美咲は八神をベッドに引っ張り込む。
「バカッ、なに言って・・」
その時、フラッシュのような光が瞬き、ものすごいカミナリの音がした。
「きゃーっ!! きゃーっ!!」
美咲は八神に抱きついた。
昔っから
カミナリが大嫌い。
子供のころ一緒に寝てると、やっぱり
おれの布団にもぐりこんできた。
「慎吾・・」
美咲は抱きついた後、ふっと八神にキスをした。
え・・。
雨の音がさらに激しく、強く
「ほんっと・・慎吾のこと・・好きだから。」
耳元で囁かれた。
「美咲、」
「あたしのこと、好きじゃなくっていいから。 好きじゃなくっていいから。 だいて、」
難しいこと
言うなよ。
そんなんしたら
おれ
すっげー
ヤな男じゃん。
「他の人とつきあってても、あたしはずっと慎吾と比べてた。 誰も慎吾以上になれなかったよ。 慎吾があたしのこと全然、そういう意味で好きじゃないってわかってた。 でも、」
美咲は泣いていた。
理不尽に思うほど
怒り狂ったり
すっごい
わがままなこと言ったりするけど。
本当は
甘えん坊で
寂しがり屋で。
おれ
また流されそう・・
後先のこと考えないで。
「ごめん。 おれ、美咲の気持ちに応えられないよ、」
彼女の背中に手をやった。
「だから、もういいから。 好きじゃなくっても・・いいから!」
胸が
ちくちくと
音を立ててる。
絶対
また後悔するんだ。
それはわかってる。
八神は美咲を抱きしめたままベッドに倒れこんだ。
「あっ・・・・ん、ん、」
エッチのときに
こんな声出すんだ
とか
こんな反応するんだ
とか
そんなの見るたび、おれの良心がズキズキする。
逆に
おれのことも
コイツ、そんなん思ってるんじゃないか、とか。
そう思うだけで
全身に鳥肌が立つほど
恥ずかしい。
ばあちゃん、ゴメン。
本当の孫みたく美咲の世話もして。
保育園に通うおれたちの送り迎えはいつもウチのばあちゃんの仕事だった。
おれたちのために
おやつを作ってくれて。
一緒に食べて。
八神は美咲を抱きながら
祖母のことを思った。
おれたちが
まさか
こんなんなってるなんて。
ばあちゃん
夢にも思ってないだろう。
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