第15話 彼女の理由(4)

そして


「すみません、いいです。」

八神がくるっと後ろを向いてしまったので、


「ウソウソ。 いいよ。 そんなスタジオなんかじゃなくってさあ。 ウチに泊まればいいじゃん。 部屋、いっぱいあるし。」


真尋は八神の肩に手をやって彼の顔を覗き込んだ。




「え? 帰れないの?」

その後、会社から美咲に電話をした。


「冷蔵庫に食い物はあるから、適当に食ってて。 鍵は明日でかけるときにポストに入れておいてくれればいいから。」


「仕事?」


美咲の追及に


「・・うん。」

ウソをついてしまった。




「わ~、しんごだァ~! ね、きょうはえびふらいがいい~!」

真尋の家に行くと竜生が飛びついてきた。


「もう無理を言わないで。 竜生ったら、」

絵梨沙は彼をなだめる。


「いえ。 いいんです。 おれが役に立てるのはそのくらいですから。 絵梨沙さん、ほんっとすみません・・いきなり。」


「いいえ。 八神さんならいつでも大歓迎ですから。」


「げーむもやろ、げーむ!」


竜生は嬉しくてしかたないように八神の手を引っ張った。


「わかった、わかった。」

八神は笑顔を見せながらも、心が重かった。




「え? 八神が?」

帰ってきた南は真尋から話を聞いた。


「すっげーヘンなの。 そのおっかけてきた彼女、八神のアパートに泊まるとか言ってたみたいなのに、突然、八神がウチに泊めてくれないかって、」


「・・泊めるほどの間柄なの?」


「知らね~。 八神はタダの幼なじみ、しか言わないんだけど。」



南は真尋の家のリビングをそーっと覗いた。


「こらっ! やったな~~!」


「わ~! おっかけてくる~~!」


無邪気に竜生と遊んでる八神に、


「八神、」

と声をかけた。


「あ、南さん。 おかえりなさい。」


「今日、真尋んとこ泊まるんやて?」


「は、はあ。 ちょっと。 ご迷惑とは思ったんですけど、」

ちょっとバツが悪そうに頭をかいた。


「ふ~ん。」

なんか深入りして聞きたいけど、なんとなく聞けない。



「ね、みーちゃん! しんごのえびふらいおいしかった~、」

竜生が南に抱きつく。


「そっかあ。 よかったなァ。 みーちゃんも食べたかったな、」

八神はふっとため息をついた。





「なあ、」


八神のために用意されたゲストルームに真尋は顔を出す。


「はい?」


「ま、ウチはかまわないから、気が済むまでいていいよ。」


「真尋さん、」


「よくわかんねーけど。 彼女、ずっと八神んとこいるの?」


「就職、決まったら住むトコ探すとか言ってるんですけど。金持ちなんだからホテルでも泊まってればいいのに、」

思わずボヤいた。


「就職のために東京来たの?」


ちょっとドキっとした。


「そう、だと思いますけど。 あいつんち勝沼でも有名なワイナリーで。海外のワインの輸入代行とかもやってて、その仕事をしていたんです。 いきなり、そこも辞めたって。」


真尋から目を逸らすように話をした。


「八神のこと、追っかけてきたとか?」


ちょっと笑って冗談交じりに言うと、いきなり八神はすごい形相で真尋を見て、


「バっ、バカなこと言わないでください!」


ものすごい否定をしてしまった。



「な、なに? そんなにムキになっちゃって。」

真尋のほうが驚いた。


「す、すみません。」

八神はちょっと震える声でそう言った。


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