第14話 彼女の理由(3)
「なんか、ケンカしてるよ、」
真尋は志藤に言う。
「ケンカっつーか。」
もう、興味が沸いてしまい二人は我を忘れて八神と美咲の会話に耳をそばだてた。
「とにかく! なんでおれんとこなんだ! その友達の家に行けばいいだろ?」
「だって、その子結婚してるもん。 しかも新婚2ヶ月だよ? そんなとこ行けないよ。 他には知り合いもいないし。」
「だから! もちょっと考えてから家出て来いっつーの!ホテルに泊まるとか!」
「いつまでになるかわかんないんだよ? んじゃあ、渋谷のクラブにでも行って、泊めてくれそうな人探すから!」
「はあ??」
「もう、いいよ!」
美咲は怒って荷物を持って行こうとしたが、
「おい! 待てって!」
それはそれで心配になり。
八神は仕方なくポケットから自宅の鍵を取り出して、彼女に手渡した。
「長居したらしょーちしねーからな。」
ブスっとして言った。
美咲は、ぱあっと明るい顔になり、
「ありがと! やっぱり慎吾なら助けてくれると思ってた!」
と喜んだ。
「ちょっとちょっと、カギ渡してますよ、」
真尋は志藤の背中を叩いた。
「う~~ん、」
志藤も彼らの関係が気になった。
美咲は上機嫌になって、志藤と真尋の元に歩み寄る。
二人は慌てて椅子に戻った。
「どーも、お騒がせしました。 あ、これ! ウチのワインなんです。 ベルギーのコンテストで賞も取って。 よかったらどうぞ。」
大きなバッグからワインを2本取り出して、それぞれ志藤と真尋に手渡した。
「あ、ありがと、」
二人は顔をひきつらせてそれを手にした。
「じゃあ、ごちそうさまでした!」
美咲はペコリとお辞儀をして行ってしまった。
八神はその後姿にため息をついた。
「な~な~、ほんとにただの幼なじみ~?」
「・・幼なじみですよ、」
「え~? 部屋に泊めちゃうんだろ~?」
真尋のしつこい追及がウザかった。
「・・幼なじみですから、」
八神は頑なにそれをくりかえすだけだった。
美咲のヤツ
何考えてんだ。
なんで
いまさら。
八神は美咲の気持ちが全く読みきれなかった。
「うっそ! 八神のこと追っかけて彼女来たの?」
「あんまり女の子の影ないし、意外ですね。」
さっそくその話は南と玉田に言いふらされた。
そんなことを言われているとは露知らず
八神はもう
いろんなことで頭がいっぱいだった。
「あのう、」
八神は斯波との打ち合わせを終えた真尋におそるおそる近づいた。
「なに?」
「あの、申し訳ないんですけど。 今日、泊めてもらえませんか?」
「はあ?」
「スタジオでもいいんです! ほんと、真尋さんとこの地下の練習室でもいいですから!」
必死な彼に、
「なんで?」
真尋は怪しんだ。
「え、」
すぐに理由は答えられなかった。
「彼女、待ってんじゃねーの?」
ちょっと意地悪く言うと、
「・・・・」
八神は暗く無言になってしまった。
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