第13話 彼女の理由(2)

「あ、あたし、多賀谷美咲といいます。 実家は慎吾と隣同士で。ワイナリーを、」

ロビーのティールームに移動して志藤にお茶をごちそうになりながら彼女は言った。


「へ~、ワイナリー? そっか八神んとこはぶどう園やったな。」


「ウチで特別に頼んでるぶどうも作ってもらってるんです。 それでもう親同士も幼なじみなんで、家族みたいに育って。」


かわいい女の子とおしゃべりをして楽しく過ごしていた志藤だったが、


いきなり


「あっ! こんなトコでさぼって!」

突然、真尋が乱入してきた。


「な、なんやねん、おまえ。」


「今日は斯波っちとうちあわせじゃん。 って、どちらさま?」

真尋も美咲を見て顔がほころんだ。


「八神の幼なじみやて。 勝沼から来たって、」


「え! 八神の?」

図々しく志藤の隣に座り込んだ。


「は、はあ。」

美咲は突然現れた大男に驚いた。


「そっかあ。 ね、いくつ? 旅行で来てるの?」


矢継ぎ早に質問をされて、困ってしまった。



そこに。


「・・あれっ?」


外出から戻ってきた八神は真尋の顔が見えたので、そちらに歩み寄った。



「も~、打ち合わせは1時ですよ。 まだ12時前なのに・・また時間間違えて。」


と、真尋に文句を言ったあと、ふっと彼の目の前に座る『彼女』を見て、おののいた。



「みっ、・・美咲??」


「慎吾!」


美咲の顔はぱあっと明るくなった。


「なっ・・」



あまりの驚きに言葉が出ない。


「今、お茶をごちそうになっちゃった、」


悪びれずに言う彼女の腕を引っ張って、少し離れたところに連れ出した。


「なんだよ! も~~! 会社になんて、」


「だって慎吾、携帯に電話しても出てくれないし。」

美咲は膨れた。


「この前、支払い滞納しちゃって。今、止められてて、」


「ウソ! なにそれ。 情けない!」


「じゃなくて! どうしたの、いきなり。」


「あ、あのね。 あたし、家出てきちゃった。」


「は?」


「だから! とりあえず、慎吾のトコに泊めて!」


満面の笑顔で

すごいことを言われた。



「家出してきたの? 26にもなって??」

もう八神は美咲の行動に疑問でいっぱいだった。


「家出じゃないよ。 お父さんが見合いしろとかうるさいから。 もうウチの会社の仕事も辞めて、東京にいる友達に頼んで、ワインの輸入会社に伝つけてもらったから。 明日、面接に行ってくるの。」


美咲はため息混じりに言った。


「み、見合い?」


「ほんっとうるさいったら。 んで、ケンカして『あたし、東京に行く!』って出てきちゃった。 一応宣言したから家出じゃないよ。」



そういう問題じゃねえだろ・・。



志藤と真尋は植木の陰に隠れるように二人の会話を盗み聞きしていた。


「まだ仕事も決まってないのに! 無謀すぎる! 美咲は東京で暮らしたことないから、そんな甘いこと言ってんだ。 ほんっと大変なんだからな! 東京は!」


だんだん彼女に腹が立ってきた。


「もう勝沼には戻らない。 この会社に採用されなくても、絶対に東京で暮らす!」


美咲は思いっきりの啖呵を切った。

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