第12話 彼女の理由(1)

こうして

夢中で突っ走り。

真尋のウイーン滞在に1ヶ月つきあった八神は


もっともっと彼の音楽やウイーンの音楽に感化され

死ぬ思いよりも、もっともっとたくさんいろんなことを経験して戻ってきた。


「なんかヤセたね~。 やつれてない?」

南は八神をからかった。


「そんなことないですよ。 ほんっと今、もう楽しくて。」

ニコニコして言った。


「真尋と1ヶ月間もマンションで暮らしてたんやろ? ようおかしくならへんかったなあ。」


「まあ。 ほんっとびっくりすることもありましたけど。 シャワー浴びてたかと思ったら、いきなり飛び出してきて真っ裸でピアノ弾き始めたり! もう体も拭いてないんですよ? びちょびちょで。 スイッチが入っちゃうともう周囲を考えられないっていうか、」


「へえ~。 真尋っぽ~いエピソード。 あの子、急に神が降臨してくるみたいやで、」

南はおかしそうに笑った。


「でも。 おれが作った料理、すっごくうまそうに食ってくれるし。 作りがいがあるっていうか。」


「それ、主婦やで、主婦。」


「ああ、そんな感じかも。 掃除とか洗濯とか。 もう脱いだものも脱ぎっぱなしで。 すっごいトコからパンツが発見されたりするし。」


「真尋の世話ばっか焼いてたら彼女もでけへんで。」


「ああ、まあ。 今は仕事が楽しいので。 それでもいっかなあって。 じゃ、外出行ってきます。」


と元気に出て行った。




めずらし

誰もおらん・・。



志藤は事業部にやってきた。


電話番くらい残ってないとアカンやろ。

まったく。


そう思いながら自分のデスクにつくと、いきなり八神のデスクの内線が鳴った。


「はいはい。 八神のデスクですが?」


「あ、受付ですが。 八神さんは。」


「八神? わからへんけど、でかけてるみたいやで。」


志藤は電話をしながら外出帳をペラペラとめくった。


「お客様が見えてるんです。」


「客?」


「はあ、女性の。」


「どこの会社の人?」


「いえ、お知りあいの方のようですが。」


知り合いの

女?



それを聴いただけで興味が一気に沸いたので、


「今、おれが行くわ。」

志藤は電話を切った。



受付に行くと、


「あの方です。」

ちょっと離れたところのソファに座った女性を指差した。


お?


志藤はその女性を見て、いきなり色めきだった。


かわいいやん!!



「あの、八神の上司ですが。 なにか、」


無敵の笑顔で彼女に近づいた。


「あ・・上司の方ですか? す、すみません!」


女性は慌てて立ち上がる。

女性というより

女の子。


しかも

チャパツがくるくるでまつげもくるくるで目がパッチリのいまどきの。


「あのあたし、慎吾・・、いえ、八神くんの同級生で。」


いきなり上司が現れたので、緊張しながらそういう彼女に、


「同級生? え、八神と同い年?」

ちょっとびっくりした。


「は、はい。」


「へ~。 ごめん、若く見えたから。 って八神も若く見えるけど。 八神、外出してて午後には戻るみたいやけど、」


「そ、そうですか。 すみません、携帯も全然つながらなくて。」


「まあまあ座って。 もう少しで帰ってくるから。 お茶でも、」


志藤ははりきって彼女の相手をした。

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