第11話 魅せられて(3)

「八神、彼女とかいるの~?」


真尋は機内食を食べてる時に突然そう言った。


「え? 彼女? ま~・・友達はたくさんいるけど、って感じですかね。 大学の時の友達とかオケのときの友達がたまに合コンセッティングしてくれるんで、それに行ったりとか。」


「そっかあ。地元とかにもいないの?」


そう言われて、ちょっとドキっとした。


「いえ・・。別に。」



動揺が顔に出ないように平静を装った。


「かわいそ。 おれ紹介したろっか?」


「え。」


この人に紹介される女って・・ 


ちょっと嫌な予感がしたので、


「今んとこ、いいです。」

遠慮がちにそう言った。



よく考えたら

この人は社長の息子で。


でも

ぜんっぜん

そんな雰囲気なくて。

お兄さんで専務の真太郎さんは

ホント、エリートって感じだけど。



「ね~ね~。 こんなカワイイ子が脱いじゃってるよ。 すごいね、」

週刊誌を差し出して、グラビア写真を見せる。


「ちょっと、も~。 こんなとこで広げないで下さい・・」

慌てて手で押さえたりした。




「だいじょぶかな、あの二人。」


南は志藤のデスクの横に来て雑談をしていた。


「まあ、真尋は生活の半分はウイーンなわけだし。 あとはスケジュール的なことを八神に管理してもらえば。 言葉は真尋がカンペキやし、」


志藤はパソコン画面を見ながら言う。



「八神ってさ~、おっちょこちょいじゃない? けっこう。 抜けてるし。 マネージャー的仕事なんかできんのかな。 タマちゃんは几帳面でスケジュール管理はカンペキやったけど。」



「ほら、あんまりしっかりしてるとさあ。 真尋なんもせえへんようになるとアカンし。 ちょっとは抜けてるヤツと組ませたほうがいいかも。」


「なにソレ。」

南は笑った。



「ねえ、なんで八神のことスカウトしたの?」

前から気になっていたことを聴いてみた。


「え? なんでって。 なんでやろ。」

タバコをくわえたまま、シレっとしてそう言った。


「まったもう! 適当やなあ。」


「人足りひんようになって、誰かおらへんかなあと考えた時。 なんか知らんけど、八神のこと思い出して。 田舎帰ったって聞いてたし。 あいつオケ辞める時もなんかあっけない理由やったしって。」


「あっけない理由?」


「うん。 もうぼくには先がないって。 斯波にそう言うたらしいで。」


「は?」


「オーボエって、言っちゃなんだけど、地味な楽器やし。 いろいろ悩んだんやろな。 あいつは留学経験とかあるわけやなくて、学生の時に国内のコンクールで入賞したりしたけど、それだけやったし。 まあ、でも。 素直なヤツやったからな。 音も人柄も。」


ライターでそのタバコに火をつけた。


「人間な、素直が一番。 最初っから『真尋番』させよう思ってたし。 ちょっとアホやけど、まあ、一生懸命にかけては使えるかなって。 そんだけ。」


志藤はニッコリと南に笑いかけた。


南は彼のその無敵の笑顔にふっと笑い返した。



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