第7話 掴まれて(3)
「あ、すみません、」
絵梨沙が慌てて戻ってきた。
「いえ。 かっわいいですねえ、」
慣れた手つきで真鈴を抱っこする八神に、
「え、八神さん独身ですか?」
絵梨沙は言った。
「そーですけど・・」
「すっごく抱っこが慣れてる。」
「ああ、甥っ子とか姪っ子がいますから。 おれ、末っ子だし。 姉貴の子供たちと一緒に住んでて。」
とニッコリ笑う。
「あ、まりん、わらってる!」
竜生がソファに乗っかって八神の肩に手をかけて妹の顔を覗き込んだ。
「ほんとだ、すごーい、」
絵梨沙も微笑んだ。
八神の腕の中に抱かれた真鈴は泣き止んでいつのまにニコっと笑っているように見えた。
もう夕方だったので、
「八神さん、会社に戻りますか? もし良かったら夕飯も一緒に食べて行きませんか?」
絵梨沙が言った。
「えっ、ちょ、ちょっと聴いてみますけど、」
まだまだ新人の身で独断では決められない。
「おれ、ハンバーグくいたいよう、」
竜生が絵梨沙に甘えるように言った。
「ハンバーグ? この前も食べたじゃない、」
「え~~、ハンバーグがいいよう・・」
ダダをこねる竜生に、
「んじゃ、おれが作ってやろっか、」
八神は彼の頭を撫でた。
「え~~~?」
すっごい疑惑の目を向けられた。
「おまえ、すっごい今疑ったな!」
八神はムッとして、
「材料、ありますか!?」
絵梨沙にそう言った。
「わ~~、」
絵梨沙は彼の包丁裁きに驚いた。
タマネギのみじん切りを鮮やかにこなし、手際よくハンバーグの種を作っていく。
「上手。すごーい、」
「学生の時に洋食屋でバイトしてたんです。 洋食系はわりと得意で。」
「え~? 音大にいたんでしょう?」
「もう、贅沢いってられませんから。 バイトも時間帯重視で選んでられないし。 でも、指を怪我したりすることもなくて、腕もめきめき上がって。 おれ、こっちのが向いてるかなあとか思ったりして。」
ハンバーグを焼く匂いが漂うと、真尋は鼻をヒクつかせながら寄ってきた。
「すっげー! うまそう!!」
よだれをたらさんばかりに言う。
フライパンの肉汁を利用して赤ワインを煮詰めてソースを作り、半熟目玉焼きも作った。
「はい! できあがり~!」
おいしそうなデミ・ハンバーグ、目玉焼きのせが出来上がった。
「おいし~~!」
竜生は喜んだ。
「ほんと。 すっごい美味しい。 お店で食べてるみたい。」
絵梨沙も感動した。
八神は満足そうに頷いた。
そして
真尋は
一口食べて
無言になり。
数秒後、ものすごい勢いで肉食獣のようにハンバーグを食べだした。
その異様な光景に一同ア然とし。
ハンバーグを完食した後、真尋はものすごい怖い顔で、
「おいっ!」
八神に詰め寄った。
「な、なんスか・・」
デカくて怖い顔の人にそんなに迫られると、体が自然に身構える。
「・・会社の携帯じゃなくて、おまえの携帯、教えろ!」
すでに命令口調だった。
「は?」
「早く! アドレスも!」
「は、ハイハイ、」
慌てて自前の携帯を出した。
それを登録し、満足そうに
「よし! これでいつでも呼び出せる!」
真尋は満足そうに笑顔で頷いた。
「・・なんですか?」
八神は恐怖で顔がこわばった。
「それより、八神さん。会社には電話を入れたんですか?」
絵梨沙の一言で
は・・。
一瞬のうちに凍りついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます