第6話 掴まれて(2)
その時、ポケットに入れてあった携帯が鳴った。
玉田が『真尋番』をするにあたってこれを持つように、と手渡してくれたものだった。
「は、はい・・」
慌てて出ると、
「あ? 誰だっけ?」
真尋だった。
「・・八神ですけど」
「あ、そーだ、そーだ。 あのさあ、気が変わって家で練習することにしたから、豆大福こっち持ってきて。」
「はあ?」
反論する暇もなく
電話はガチャっと切られた。
って・・
社長の家だし。
八神は真尋に翻弄されている自分にうすうす感づきはじめた。
門もひとつで。
え~~、どーしたらいいんだろ。
仕方なくインターホンを押す。
「ハイ、」
女性が出た。
「あの、ホクトエンターテイメントのクラシック事業部のものですが、真尋さんに・・」
「あ、はい。 どうぞ。」
門は開いた。
どうぞって。
門を入ると
庭、ひっろ・・。
そして目の前にはビルのような豪邸が。
「どうもすみません。 真尋がわがままを、」
は・・。
赤ん坊を抱きながら出てきた絵梨沙を見て、八神はもう
その美しさにボーっとなってしまった。
「新しい方?」
と微笑まれ、
「あ、はい。 あのっ、八神と申します!」
「ほんと、すみません。 わざわざここまで、」
「そ、そんな、」
さっきまで
ちょっとだけ怒りの炎が点火しそうだった気持ちが一気に萎えていく。
「ママ!」
小さな男の子が走ってきた。
「パパの会社の人よ。 竜生、ごあいさつしなさい。」
と促されたが、
竜生はいきなりおもちゃのマシンガンを取り出して
「Da-da-da-da~~~~n!!」
と八神に向かって打ち出した。
「へ?」
呆然としていると、
「Fall down!!」
竜生は八神に言いはなった。
英語??
もう面食らうことばかりで。
「お! 来た来た、豆大福が~~!」
真尋は八神本人は全く目に入らず、すぐさま豆大福に飛びついた。
「真尋、失礼よ。 ここまで来てもらったのに、」
絵梨沙は彼をたしなめた。
「だってさ、これどうしても食いたかったんだもん。 いっただっきま~~す!」
「おれもくいたい~、」
竜生も手を伸ばした。
絵梨沙は赤ちゃんの真鈴をベビーベッドに寝かせて、
「じゃあ、これからは玉田さんに代わって、八神さんが真尋についてくださるんですか?」
と言った。
「え、あ・・はい。」
「本当に手のかかる人ですけど。 よろしくお願いします。 あたしもまだ真鈴が生まれたばかりで海外にはついていかれないし、」
「は、はあ・・。」
ほんっと
キレイだなあ・・。
絵梨沙がキッチンに行くと、ベビーベッドの中の真鈴が泣き出した。
八神は気になりつつも、どうしていいかわからず目だけベビーベッドのほうに向けた。
「あ! おまえ、それ食いすぎ! もーダメ!」
「え~~~、もっとたべたいよう、」
真尋さんは子供とまだ平気な顔をして大福を食ってるし。
赤ん坊泣いてるっつーの!
親だろ、アンタ!
つっこみたくなったが、ちょっと怖かったので、
「よしよし、おいで。」
仕方なく真鈴を抱っこした。
まだ生まれて2ヶ月で首も据わらない真鈴をそおっと抱き上げた。
かっわい~なあ。
ふにゃふにゃで
手もすっごく小さくて。
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