第2話 蒼の季節(2)

「ああ、この前慎吾と地下室に一晩閉じ込められたって、あなたのことよね?」


彼女からいきなりその話になり、ちょっとドキンとした。


「えっ、あ~っと、そんなこともあったような、なかったような、」


夏希はここでウン、と頷いていいのかどうか憚れるほど、


彼女はテキパキとハッキリとした物言いをする。


「ね、ほんとに何もなかった?」


「はあ?」


「どっか触られたりしなかった?」



ドッキーンとした。



「さっ、触るって・・」


確かに


事故っぽいけど、そんなこともあったりして。



「慎吾、けっこうスケベだからさあ。 ああ見えて。 顔は小学生みたいなくせして。 図々しいし。」


「なっ、何もなかったですよ!ほんと!」



そこに南が戻ってきた。


「あれ? 美咲ちゃん?」


彼女を覗き込む。


「あ、南さん。 ごぶさたしてます、」


立ち上がってペコっとお辞儀をする。


「八神、いないよ。 なに? 偵察?」


夏希をチラっと見ながら彼女に笑いかけた。


「今日、仕事休みだから。 ちょっと寄ってみよっかなあって。 この彼女のことも気になったし。」


また思いっきり指を指された。


「アハハ、加瀬なんか、ほんっとなんもないって。 心配することないよ。」


南は笑い飛ばした。


「慎吾ってばすっごいわざとらしい否定するから。 『加瀬なんかすっげーブスでおれがそんなん相手にするわけない!』とか言うから。」



「はあ???」



夏希は


『心外』


という言葉が頭をグルグル回り始めた。



「でも、そんなブスじゃないじゃんって。 でっかいけどむしろカワイイし、」



なんて


なんでも言っちゃう人なんだろ・・。



夏希は彼女を傍観してしまった。




「はあ? 美咲が来たあ?」


夕方頃外出から戻った八神は驚いたように言った。


「なんか、いろいろいじくって行きましたよ、」


夏希は彼のデスクの上を指差した。


「あっ! だからガンダムの位置が動いてんだ! あいつ、会社にまで来やがって何考えてんだっつーの!」


「あたしを見に来たそうです。」


「は?」


「『すっげーブス』とか言いたいこと言ってくれちゃって。」


夏希は八神をジロっとにらみつけた。


「えっ!! え~~っと、だって、そうでも言わなくちゃとっても納得しないっつーか!」


いきなり慌てふためきだした。


「でも、信じられないくらいカワイイ彼女ですね。 びっくりしちゃった、」


「え、」


「ほんとにあんなカワイイ人が八神さんのことおっかけて東京に来たんですかあ?」


疑惑の目を彼に向けた。


「なっ、どういう意味だよっ! ほんとだからな! それは!」


ちょっとムキになって言い返した。



ほんっとに


あいつっていつも唐突なんだよなっ!



八神は大きくため息をついた。



なんだか


3年前を思い出してしまった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る