3-3.保護
魔獣が確かにこと切れたのをカイオが確かめ、その間にセノンは周囲の様子を探った。
入念に確かめ、不審な音は聞こえてこないと確信を得る。
「よし、周囲に他の魔獣もいない。あの子のところに戻ろう」
魔獣の爪と角を取るのを後回しにして、少女のところへ戻る。
少女はセノンが離れた時のまま、服の胸元を固く握りしめ、地面に座り込んで震えていた。
セノンが声を掛けようとしないので、代わりにカイオが声を掛ける。
「大丈夫でしたか?」
「あ…は、はい。助けてくれて、ありがとうございます…依頼を受けてくれた、討伐者の方、ですよね…?」
「ええ、そうです」
少女はおそらくセノンより少し年下に見え、濃い茶髪に幼い顔つきの少女だった。
カイオは転んだ時についたであろう少女の足の怪我を見て取り、セノンに声を掛ける。
「セノン様、足を怪我しています。魔法で治してあげて下さい」
「あ、うん。…ちょっとごめん」
少女の傍らにしゃがみ、回復魔法をかけて治す。
大した怪我ではなかったためすぐに治ったが、治療の間少女は居心地悪そうにもじもじしていた。
「よし、終わり」
言葉とともに立ち上がって離れると、少女はほっとした顔をする。
「あなた、この付近の村の住人ですね?さすがにこのまま放置するわけにもいきませんし、村まで送りましょう。立てそうですか?」
「はっはい、村は、しばらく歩けば近くに…ただちょっとまだ、足に力が入らなくて…ごめんなさい…」
カイオの問いかけに少女はびくりと身を震わせながらも、申し訳なさそうにおずおずと答える。
その様子をみてカイオは溜息をつく。
「だとしたら、おぶっていくしかありませんね。セノン様、お願いできますか?」
「えっ…いや、それはカイオが…僕は出来れば…」
二人の会話を聞き、少女はあわあわと落ち着きをなくした。
女の子座りのまま簡素なワンピースの太もものあたりを両手で握りしめ、妙にもじもじしている。
「えっと、その、おんぶされるのは、ちょっと…ごめ、ごめんなさい…」
少女が恥ずかしそうに顔を赤くし、身を震わせて泣きそうになっているのに気付いてセノンはぎょっとする。
一方でカイオは目ざとく何かに気づいた。
「…セノン様、ちょっと私たちの姿が見えないよう、離れてあちらを向いていてください。耳をしっかりと塞ぐのも忘れないように」
「えっな、なんで?それにその子、なんか様子が…」
「いいですから。早く」
有無を言わさない指示に訝しみながらも、セノンは素直に従う。
セノンが五メートルほど離れて耳を塞いだのを確認して、カイオは自分の荷物を漁る。
そしてあるものを取り出すと、少女に差し出しながら再び話しかけた。
「これ、使って下さい。男物で申し訳ありませんが、未使用の綺麗な物ですので安心して下さい」
そう言いながら、少女に丸めた布の塊…ショートパンツ型の下着を渡した。
少女は恐怖のあまり、粗相をして下着を濡らしていた。
この状態で背負われたりしたら、ひどいことになってしまう。
恥ずかしさのあまり言い出すことも出来なかったのだろう。
少女は羞恥に再び顔を赤くしつつも、驚いたようにカイオの顔を見上げた。
カイオは何でもないことのように、涼しげな表情をしている。
「あ…ありがとう、ございます…」
「服の方はまあ大丈夫だと思いますが…ああ、拭くものもいりますね。ちょっと待って下さい、ちょうど捨てるつもりだったのがあります」
カイオは再び荷物を漁り、布を取り出す。
少女はちらちらセノンの方を気にしながらも、それらを受け取った。
「本当に、何から何まで、ごめんなさい…」
「どういたしまして。…年の近い彼に気づかれるのも、嫌でしょうしね」
カイオの指摘に、三度少女は顔を赤くする。
そのままカイオが背を向け離れると、少女はもぞもぞと身を清め、着替えを済ませた。
少女に声を掛けられ、カイオは全て終えたことを確認する。
「セノン様!もういいです!戻って下さい!」
カイオの大声が塞いだ耳越しに微かに聞こえ、セノンは振り返った。
そのまま少女とカイオの元へ戻る。
少女は少し落ち着いたようだったが、まだ足に力が入らないのか座り込んだままだ。
「ではセノン様、彼女をおぶって下さい」
カイオの何気ない言葉に、セノンは再び動揺し狼狽する。
「いや、カイオでいいでしょ…わざわざ僕がやらなくても…」
「何を仰いますか。私より強化魔法を使えるセノン様が適任でしょう。まあ私もこのくらいの少女一人を抱えるくらい訳はありませんが、先ほど変な魔力の使い方をして少し疲れました」
カイオはふうと息を吐く。
魔獣を引き付けるために無駄に魔力をまき散らしたのが、思った以上にこたえたらしい。
またカイオは、「自分に下着を貸した男には背負われたくないだろう」とも考えていた。
少女はおろおろとセノンとカイオの顔を交互に見る。
「な、なら、カイオかこの子が落ち着くまで、少し休憩したって…」
そう言葉を連ねた瞬間、セノンの聴覚は魔獣の足音を捉えた。
すぐ近くではないが、そう遠くもない。
このままここでのんびりしていると、遭遇してしまうかもしれないことがセノンには分かった。
「…」
「どうかしましたか?」
「……わかった、やるよ…」
黙り込んだ理由を見透かすようなカイオの追及に、ついにセノンは折れた。
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