3話 森と少女

3-1.遭遇

「これで、とどめ!」

「グゴォ…!?」



 魔獣の分厚い筋肉を断ち切り、致命傷を負わせる。

 離れるとすぐに、魔獣は倒れて息絶えた。


 相手取っていたのは、熊とサイを掛け合わせたような、体長二メートル半・体高一メートル半ほどの魔獣だ。

 攻撃のために稀に立ち上がることもあるが、基本的には四足で動き回る。


 力が強く突進力もあるため比較的手強い魔物だが、セノンとカイオは問題なく討伐を繰り返していた。


 戦っていた場所は、木々が生い茂る鬱蒼とした森の中。

 まだ日は高いが日光が入りにくいせいか薄暗く、僅かに肌寒い。



「これで八匹目?全然群れないのは楽だね」

「時間もかかりますし、私はちょっと面倒です」



 個体が強力なためか一匹でいることが多いのはいいが、その分複数を一度に相手すると危険だ。

 一匹相手でも実力不足の討伐者パーティでは蹴散らされかねない。


 加えて、この魔獣の厄介なところは魔力に敏感なことだ。

 カイオが大ダメージを狙い火炎魔法を構築しようとすると、すぐに感知して強力な突進を仕掛けてくる。


 一度など、隙を見てカイオが高火力魔法を構築しようとしたところ、離れた二匹目に察知され二匹を同時に相手取る羽目になってしまった。


 そのためカイオは火炎魔法を控え、察知されにくい小規模な幻惑魔法と剣術だけで戦っている。



「じゃあやっぱりカイオにも強化魔法かけようよ。手早く仕留められるし、カイオも楽でしょ」

「いえ、それは止めておきましょう。セノン様の強化魔法は他者を対象とすれば消費魔力も増えますし、効果も落ちます」



 セノンの提案に、しかしカイオはすぐに首を振って反対する。



「セノン様は回復も担っていますし、貴方が怪我したり魔力切れで動けなくなるのが一番困ります。ご自身を最優先して下さい」

「まあカイオがそれでいいなら、いいけど…しかし、戦いが激しくなるせいかお腹空いたな」

「そうですね、少し休憩がてら軽食を取りましょう」



 言いながらカイオは荷物からあらかじめ用意していた食料を取り出し、テキパキと準備を始める。

 察知されないようごく小規模な魔法で火を起こし、缶のスープとサンドイッチを温める。


 サンドイッチは分厚いベーコンとチーズを挟んだもので、シンプルだがいい肉とチーズ、パンを使っているため味がよい。

 スープもカイオの手でたっぷりの野菜と、体を温めるためのスパイスが加えられている。

 濃い目の味付けが食欲を刺激し、汗をかいた体にも丁度いい。



 カイオは時折セノンに手料理を振舞うが、その見た目に反して肉中心の男っぽい濃い目の料理を得意としている。

 その味付けは食べ盛りでもあるセノンの好みに合致し、たまに作る料理はいつもセノンを満足させていた。



「少々手間はかかりますが注意すれば不覚は取りにくいですし、お金にもなりやすいので悪くない相手ですね」



 カイオは食事をとりながら、何気なくそうこぼす。


 一体目を仕留めた時に教えてもらうまでセノンは知らなかったが、この魔獣の爪や角が魔力触媒や魔法アイテムの材料になるらしい。

 特に角は、魔力感知の源にもなっているらしくなかなかいい値がつくようだ。



「個体数は多くないので大金にはならないですが、労力のわりにもっと実入りは少なくなるかと思っていたので少し安心しました」



 その言葉に、セノンはこの討伐の依頼主についての情報を思い返す。

 カイオが懸念は、依頼主が原因だ。



「結構近くに小さな村があって、そこの住民が困ってるんだよね?最近急に数が増えたとかって」



 三つ目のサンドイッチにかぶりつきながらセノンが確認する。


 今回の討伐は無作為でも賞金首狙いでもなく、住民からの依頼案件だ。

 魔獣は、目撃情報や軽微な被害情報を基に無作為に討伐しても幾らかの報奨金が与えられる。


 だが組合や住民から依頼が出された緊急性の高いものは、より金額の大きい事が多い。

 ただこの依頼の金額は大したことがなく、魔獣も比較的強力なため敬遠されていた。


 それをセノンが見つけ今回の討伐に繋がっている。



「そうですね。しかしこんなぱっと見で旨味の少なそうな依頼を見つけてくるなんて、セノン様は流石と言えます」



 カイオの皮肉気な言葉に、セノンはむっとしてカイオの顔を軽く睨む。



「いいじゃん、別に。村の人困ってるみたいだったし」

「まあ、こういう依頼もこなせばセノン様の世間評価も上がるでしょうし、良しとしましょう。今後の安全も考えて数を減らすだけでなく、出来れば今回で殲滅してしまいたいところです…おっと」



 話しながら、カイオはサンドイッチのベーコンがこぼれたのをとっさにキャッチして口に運ぶ。

 そのまま指についたソースを舐めとり、流れで唇にわずかについたソースも舌で舐めとる。


 カイオは基本的に丁寧だが、普段は意外とこういうところがある。

 その何気ない仕草に、ついセノンは目が離せなくなり、カイオの口元を凝視してしまう。



「なんです?じっと見て。まだついていますか?」

「えっいや、だ、大丈夫…ついてないよ」



 慌てて否定し、視線を外す。

 先日カイオの体に触れる夢を見てから、男装していてもふとした瞬間に女性らしさを感じる瞬間があり、ドキリとしてしまうことがあった。 あまり良い傾向ではない。



 その後は言葉少なにもくもくと食事を終え、片付ける。

 そして討伐を再開しようとしたところで、離れたところから突如女性の悲鳴が聞こえた。

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