枝葉末節にこだわる〈西洋中世の日常生活〉
橋本圭以
食生活
野菜を食べるのは家畜とイタリア人だけ
中世の人々がふだん食べていたもの、というと何が思い浮かぶだろう。パンにスープ、炙った肉といった感じだろうか。
16世紀にフィレンツェで活躍した画家のヤコポ・ダ・ポントルモが残した短い日記は、この話題に関する貴重な史料である。簡素な筆致にもかかわらず、食べ物についての記述が実に豊富なのだ。
王侯貴族の食卓に並ぶような高級メニューではなく、貧乏人の食事内容でもない。粗食を心がけていたが、たまには豪勢な食事も楽しんだ。食材や調理方法はバラエティに富んでいる。
ポントルモは成功していた画家だった。宮廷に雇われてはいなかったが、弟子が働いた分の賃金を国庫から受け取っていたらしい。まずまずの収入があって食うには困っていなかった庶民の食生活の一例と言えよう。
日記にはパン、卵、チーズが多く登場し、日によって肉や魚や野菜、さらにリンゴや梨など果物も登場する。
卵は1日に1個か2個を、たいていはオムレツにした。あるいは目玉焼きにしたり小麦粉と混ぜフライにして食べていた。牛乳はそのまま飲まず、チーズにするか料理やタルトに使う。冷蔵手段がなかったからだろう。
さて本題の野菜である。
中世に野菜を食べるイメージはあまりないかもしれない。ラノベに限らず中世風の世界を舞台にしたファンタジーでは、野菜は食卓にはあまりのぼらないのではないだろうか。
中世イタリア人は野菜を大量に食べていた。野菜は種類にもよるが山野で見つかるし、市場で入手でき、自家栽培もできた。たくさん消費されていたことはポントルモの日記が裏付けている。
日記には次の野菜が複数回にわたって登場する。
・キャベツ
・ケッパー
・テンサイ
・レタス
・ルリチシャ
・グリーンピース
・チコリー
・アスパラガス
・空豆
・かぼちゃ
・ほうれん草
・エンダイブ
・ローズマリー
キャベツは茹で、カボチャはフライにし、葉物やハーブ類は塩とオリーブオイルをかけてサラダにしたようである。よく知られているようにジャガイモとトマトはまだなかったが、たまねぎ、にんにく、ズッキーニ、アーティチョーク、ルッコラなど今日でもよく使われる野菜があり、豆類も好んで食べられた。
西洋中世っぽい世界でグリーンサラダめいたものが出てきても、実はそれほど不自然ではないかもしれない。
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