少女C -Survey-
それから2日後、
「
「
2日前、依頼を望んだ千葉さんをシオンさんは止めた。“ 原則として、未成年と契約はしない ” と。本当の理由は、お姉さんのことに関して千葉さんが冷静でいられないだろう、とシオンさんが判断したからだ。もちろん、本人には言っていないが。
「本当のお姉ちゃんは瑛太さんをフルはずない!きっと、あの女に言われたのよ!」
「そう、だと良いんだけど…いや、良くないか…」
遠藤さんが一瞬だけ顔を顰める。
「それで、
彼が口にした〝詩乃〟というのが、千葉さんのお姉さんの名前だろう。
「はい!依頼を受けるからには、解決しますよ。」
「ほ、本当に…?」
“ 解決する ” と言い切ったシオンさんに、千葉さんが期待と疑念を向ける。
「少し、その…
「その中に、詩乃も?」
「おそらくは。」
いつのまにそんな情報を手に入れてたんだ…
「どうしてっ…」
千葉さんがスカートの裾を握りしめる。遠藤さんは、そんな彼女を気遣うような視線を送った後、シオンさんを見定めるように問いかける。
「具体的に、どうするつもりですか?」
「提示できるような具体案はまだありません。ある程度の目処は付けていますが…まだ不確定な要素が含まれていますからね。」
千葉さんはあからさまに疑った表情を見せる。遠藤さんも訝しげに目を細め、シオンさんの代わりに、出されたコーヒーを見つめた。
無理もない、よね。まさに今、千葉さんのお姉さんは詐欺紛いな事に巻き込まれているんだから。
この事務所、というか、シオンさんの怪しさは認めざるを得ない。
「おーっと!そーんな不安そうな顔しなくても大丈夫ですよ?座間ナンデモ相談事務所は、“
千葉さんと遠藤さんは視線を交わした。悩んでいるようだ。
「んー…そろそろですかね。」
シオンさんが時計を確認した直後、事務所の扉が開く。
「お待ちしていました、
そう言ったシオンさんには、見覚えのある表情が浮かんでいた。
私が助手になることを決めた時と、同じ──
部屋には6人の女性がいた。皆、白装束を身に纏い、祭壇に向かって静かに、しかし何かに怯えるように座っていた。
「そこに座りなさい。」
緩やかな口調で、私を中央の座布団へ促す。彼女──祈祷師、菅原 翡翠も白い服装だが、クロークのような形状に加え、多くの装飾品を付けている。
「あなたも傷ついて、ここに導かれたのね。もう心配要らないわ。正しき祈りを捧げれば、必ず救われる。」
肩に手を置きながら、彼女は優しくそう言った。
「はい。」
私の一言を聞き、彼女は懐から何かを取り出した。ブレスレットのようだ。小さな球体と立方体がたくさん吊るされているそれを、私の頭上に掲げ、ジャラリ、と一振り鳴らした。
「私の目を見て。あなたのことを教えて?口に出さなくて良いわ。本当の気持ちは、心でしか言えないものよ。」
彼女の目を見つめる。しばらく見つめ返された後、祈祷師は目を強く瞑り、天井を仰いだ。彼女の右手に握られたブレスレットが小刻みに震え、ジャラジャラと音を立てる。
「そう…
彼女の視線に、頷き返す。その様子を見て、周りの6人の女性たちは、畏敬の念を各々で示した。
「でも…そう…その名前には、悲しいことがあったみたいね。その名前がきっかけで親友になった子に、あなたは拒まれた…」
彼女は憐れみを私に向ける。
「でも、あなたも、その素敵な名前も、何も悪くないわ。あなたの魂は、呪いにかかっているの。」
〝呪い〟という言葉が、強く耳に響く。ブレスレットが鳴り、小さな悲鳴が女性の1人から聞こえた。
「どうすれば、良いですか?」
小さく尋ねると、彼女はまた優しく語りかける。
「あなたの魂は、病にかかっているの。身体と同じ。病気は治療すれば良いの。魂の治療は、すなわち祈ること。祈りましょう。あなたの、ここにいる彼女たちの、全ての魂の為に!」
「…素晴らしい思想ですね。菅原 ひなたさん。」
私の言葉を聞いた彼女が固まる。
「…私は翡翠よ、茜さん。」
「いいえ、あなたの本名は菅原 ひなたさんです。そして私は、
彼女は驚愕した表情を見せる。周りの女性たちは、不安そうに私と祈祷師を見つめた。
「そんな…はずないわ。私の能力に間違いはない。あなた…私と彼女たちを惑わす気ね。…出て行きなさい、今すぐに。」
「そうはいきません。私はここに、依頼を果たしに来ました。」
「依頼ですって?」
「はい。
私が口にした名前に、1人の女性が反応する。その女性は私を見た後、祈祷師と目が合うと、怯えたように自分の膝に視線を落とした。
「あなたの能力が偽物とは言いません。ですが、本物ならばなぜ、
今度は菅原さんが名前に反応する。
「…………出て行きなさい。あなたの魂は、この聖域を穢すわ。」
「では、私が代わろうか。」
この部屋にあるはずのない、男性の声が響く。
「
部屋の出入り口には、男性が立っていた。
「いつの日か、私の魂は最も高貴だと言ってくれたね、ひなたさん。であれば、この聖域とやらに立ち入っても良いはずだが、違うか?」
「っ…………」
「彼女を信じる女性たち、よく聞いてほしい。私は、菅原 翡翠──菅原ひなたに、君たちの情報を売った。その情報を元に、彼女は君たちを信じ込ませた。」
「仁!どうしてっ…」
「悪いね、ひなたさん。君は良い商売相手だったんだが、優先されるべき契約があってね。」
「商売相手…?あなたっ、私のことを良きパートナーだと…」
「あぁ、君は良きビジネスパートナーだ。いや、“ だった ” と言うべきか。彼との契約が介入した以上、君との関係は今日限りだ。」
彼女の手が震え、ブレスレットが鳴る。
ジャラジャラ、ジャラジャラ…
それに紛れて、仁さんの後ろ──この別宅の玄関の方から物音が聞こえた。ほどなくして、遠藤さんの姿が見える。
「詩乃!」
「え、瑛太…?」
先程、千葉さんの名前に反応した女性──千葉 詩乃さんが、彼の姿を捉え、後退る。
「ダメ…ダメなの…!貴方といたら、私…呪いにかかったまま、死んでしまうの!お母さんも、千尋もいるのに…!」
「詩乃、君に呪いなんてかかっていない。」
「だって、だってずっと、悪いことばかり…!」
胸が苦しくなる感覚がして、意識的に息を吐く。
「…それには、原因があったんだ。呪いなんかじゃないし、詩乃も悪くない。」
遠藤さんが私に少しだけ視線を割く。
“ 君のせいでもない。”
そう言ってくれていると思うのは、私の願望だろうか。
「だから、帰ろう。千尋ちゃんも、お母さんも、待ってるから。俺と一緒に」
「ダメよ!」
菅原さんが声を荒げる。先程までの優しい声音が嘘のようだ。
「詩乃さん。今帰ればあなたは、いいえ、周りの人も全員呪われるわ!それで良いの?呪われたあなたの魂が、皆を不幸にするのよ!」
詩乃さんは身体を震わせ、瑛太さんと距離を取る。
「そう、それで良いのよ。…さぁ、穢らわしい魂は出て行きなさい!これ以上、彼女に関わるのなら」
「関わるなら、なんだ?」
菅原さんの言葉を遮ったのは遠藤さんだ。予定にはない状況が複数起きているが、彼の言葉を止めることができなかった。
「あなたが何をしようと、…俺の魂を呪おうと、構わない。ただこれ以上、詩乃に関わるなら、傷つけるのなら…俺はあなたを」
『はい、ストーーーーップ!』
唐突に、仁さん──ではなく、彼の手の中のスマートフォンから、青年の声が聞こえる。
『遠藤さん、気持ちはわかりますが、その先はグッと心の中で堪えてください。』
「…シオン、少しは空気を読んだらどうだ?」
仁さんがやれやれと、ため息を
『人の言葉に力があることは、仁さんもよくわかってるじゃないですかー。』
「…この状況でそれを言われると、痛いねぇ…」
『遠藤さん、その先の言葉を言ってしまうと、それこそ〝呪い〟にかかってしまいますよ?』
遠藤さんはシオンさんの言葉を聞き、菅原さんから視線を外した。詩乃さんに近づき、震える彼女の手を優しく握る。
「帰ろう、詩乃。」
仁さんと目で合図を取り、2人に近づく。まだ私に怯えた様子の詩乃さんを、遠藤さんが宥める。
『さて、菅原さん。ビジネスの話といきましょう。』
2人と共に部屋を出ると、そんなシオンさんの言葉が聞こえた。
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